【考えの足あと】まちのこれから(少子高齢化⇒人口減少)

第1 人口移動

1 収束の傾向
人口減少による経済の縮小により、人口移動は収束してきている。
いま都道府県をまたいで移動しているのは若い世代。20~30代。
全体でみると、都道府県間の移動は減少。同じ市区町村内での移動は増加。

2 同じ市区町村内での移動の傾向
(1)住宅購入
若年世代が、まずは都道府県外から賃貸住宅へ入ってくる。
彼ら彼女らは、賃貸住宅で住宅取得資金を貯める。
住宅取得資金が貯まったら、分譲マンションや一戸建てへ移り住む。
住宅の購入時期としては、35歳・子持ちが標準。
(2)借り増し・買い増し
団地など、広さが一定程度しかない住宅であっても、同じ建物の部屋を借り増す、同じ団地内の別な建物の部屋を借り増すなどして、ひとびとは家族の増加(子の出生や成長など)に対応してきた。
一戸建ての隣地建物を買い増ししてゆく事例もあった。最初の一戸建ては住宅として使用。次は店舗。その次は駐車場。その次は農地。
「1世帯・1住宅」という先入観は、見直した方がいい。
(3)高齢化による移動
高齢化により徒歩で移動できる距離が短くなってくると、ひとは、スーパーなどの店舗に更に近い住まいを求めて、ほんの短距離でも転居することがある。
こうした傾向からすると、郊外の拠点店舗に依存した生活にも注意が必要。人口減少により、そうした拠点店舗が撤退したら?
将来の更なる高齢化を見すえ、都市をコンパクト化してゆくことが必要である。

3 地価との関係
(1)基本
人口が減少すると、それだけ土地の需要が減って、地価が下がる。
人口が高齢化すると、同様に土地の需要が減って、地価が下がる。
(2)中島コメント
長期の視点からみると、国際経済における日本の地位が下がって、その分、円がインフレになるという意見もあります(白井さゆり『東京五輪後の日本経済』小学館2017.9.13)。
地価が下がる圧力と、円がインフレになる圧力、どちらが強くなっていくか、注目です。

第2 コンパクトシティ

1 首都圏及び古くからある政令指定都市(札幌・仙台・福岡)
これらの地域は、市街地と郊外の地価の差が大きい。従って、郊外の住民が、その土地を売却して、市街地に移住することが、難しい。

2 新しい政令指定都市(新潟・富山・静岡・浜松)
これらの地域は、市街地と郊外の地価の差が大きくない。従って、郊外の住民が市街地へ移住しやすい。コンパクトシティ化できる可能性がある。
モデルケースは富山市。
逆に、静岡市のように、静岡県と連携して、規模拡大による成長戦略を打ち出す都市も。逆行現象。

3 コンパクト化の方向性
(1)仮設住宅という経験
参考になるのは、大震災後の仮設住宅。
阪神・淡路大震災では、プライバシーを重視した設計で、住民同士が顔を合わせないように住宅を配置した結果、孤独死が増えた。
この教訓から、東日本大震災では、住民同士が顔を合わせやすい配置に。子育てのためのエリアも緑地のそばに。そのエリアと高齢者の暮らすエリアは近接していて、子どもと高齢者のふれあいが生まれる。スーパーも設置。そこでは住民が働く。雇用の創出。高齢の住民でも移動しやすいように、地面は平坦に。集会所はフォーマルな場所なので、ひとが溜まりにくい。集まりやすいオープンスペースも別途配置。
(2)移住できない人々
コンパクト化についてゆくことができず、郊外に残るひとびとも、もちろん出てくるだろう。そのひとびとの生活をどのように支えるかも大事。

4 住民自治
(1)合意形成の進め方
コンパクト化には住民たちからの合意が必要。長期計画では論点がたくさんありすぎて合意が形成しにくい。短期計画についての合意を丹念に積み重ねてゆくべきである。
(2)中島コメント
率直な印象、住民に、そこまでの意欲があるでしょうか。

5 実際に起こっていること
(1)都心移住:超高層タワーマンション
東京都では「都心移住の推進」として、超高層タワーマンションが、港湾部を中心に乱立。港湾部は、かつて、工場地帯として栄えていた。しかし、産業の空洞化により、工場は移転。空き地が広がっていた。その空き地を活用するためにも、超高層タワーマンションが建っていく。
しかし、あまりに早くたくさん建ち過ぎている。学校など、周辺の施設が追いついていない。
そもそも、超高層タワーマンションは、災害時、電気水道ガスの供給が止まったら、どうするのか。大修繕のための積立金は、きちんと貯まっていくのか。老朽化したとき、建て替え等について、住民たちの合意形成はできるのか。問題は多い。
(2)市街化調整区域の再開発
いままで、市街地から距離のある地域には、「市街化調整区域」として、住宅地としての開発に規制がかかっていた。その規制が撤廃。農地などの緑地のなかに、住宅地が散在するようになってきた。市街地から離れた地域での住宅地の散在。自治体によるインフラの維持にかかる負担が増す。
(3)中島コメント
新自由主義による規制緩和が、上記(1)(2)のような問題を起こしているのですね。
「自由」とは、「拘束の欠如」(何でもしてよい自由)なのか「規範創造的自由」(自分たちでルールを形成していく自由)なのか。憲法学者、樋口陽一さんの指摘です。
住民たちによる合意形成は難しくても、少なくとも個人的には、町がどのようになってゆくのがよいか、考えておきたいです。
(4)高齢者入居施設
市街地の地価が高いため、郊外に高齢者入居施設が建つようになっている。
自分ひとりのちからで生活することができなくなってきたとき、市街地に高齢者の居場所がない状況。

第3 豊島区
(1)傾向
しばらくは若年人口の流入が続く。
しかし空き家は現時点でも増加傾向。住宅供給の過剰。
ただ、豊島区の調査によると、国による「住宅・土地統計調査」の結果ほどには、空き家はないという。
(2)中島コメント
池袋東口におけるシネマコンプレックスの建設も、若年人口の流入を見込んでのことなのでしょう。繁華街の振興、そのエリアからの事業税の税収増加が主たる目的なのでしょうか。豊島区は、更に若者の町となってゆくようです。
一方で、東池袋では、古くからある住宅地が再開発の対象となっています。高齢者(税収が少なくて保険支出が多い)の住んでいるエリアを再開発して、働き盛りの世代が住みやすい町にしてゆく。こうした住宅政策の傾向については、今回調査した文献にも指摘がありました。
豊島区は、これからますます、高齢者の居場所が少ない地域になっていくのかもしれません。
豊島区に限らず、都心からは、高齢者の暮らしを郊外へ追い立てるような旋風が吹いている印象があります。
首都圏の人口分布としても、都心に、本当に昔から住んできた高齢者の方々がいらして、時代の流れとともに、だんだん地価上昇に追われて、郊外へ人口が移っていったようです。
ひょっとすると、成年後見業務も、これからだんだん、主な舞台が都心から郊外へ移っていくのかもしれません。郊外への高齢者の人口集中。①都心に住む場所がなくなって、郊外へ移ってきた高齢者、②もともと郊外に住んでいた高齢者。
余談。中島個人の生活設計としては、豊島区での住宅購入は、先送りにしておいたほうがよさそうです。人口流入が続くことによって、しばらく地価が高止まりしそうですし、成年後見業務の舞台を、郊外に移すことになるかもしれないからです。しばらくは安い賃貸住宅で暮らして、住宅取得資金を貯めることにします。

〔参考文献〕
1 野澤千絵『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』講談社現代新書2397/2016.11.20
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062883979
2 大月敏雄『町を住みこなす』岩波新書新赤版1671/ 2017.07.28
https://www.iwanami.co.jp/book/b297938.html
3 齊藤誠『都市の老い』勁草書房/2018.1.25
http://www.keisoshobo.co.jp/book/b341355.html

以上

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