【読書】岩宮恵子『生きにくい子どもたち』岩波現代文庫

岩宮恵子『生きにくい子どもたち』岩波現代文庫 社会182 2009.3.17
https://www.iwanami.co.jp/book/b256431.html

サワリだけ読むつもりが、面白くって、一気に通読(^^)
個人的にすごく好きな本、河合隼雄さんの『子どもの宇宙』のテーマを、更に現場の目線から掘り下げた内容。

著者は、臨床心理学者、カウンセラー。指導教授は、河合隼雄さん。

「7歳までは神のうち」。子どもは「社会」というものがあることを知らずに生まれてくる。子どもが成長して社会化してゆく過程は、もともと自分の内奥に秘めていた「異界」を排除してゆく過程でもある。
「社会化すること」が「全面的に良いこと」であるとは限らない。幼い子どもたちの突飛な発想や行動には、かけがえのない魅力がある。社会化してゆくことは、そのかけがえのない魅力を喪失してゆくことである。
著者は、キラキラした魅力を秘めた子どもたちが、「普通の子ども」になってゆく様子を見て、言いようのない寂しさを感じることがあるという。

社会化してゆく流れが固まった社会で、その社会化にうまく対応できない子どもは、辛さを抱える。その辛さは、夜尿、アトピー、偏食、拒食などの症状で表れる。

ひとは、何かを失うとき、物語を必要とする。カウンセリングの現場で、子どもたちが語り描く物語は、その内奥で失われゆく異界の物語でもある…

唾を飲む込むことさえもできなくなった、小学生の女の子。完全な拒食。この世で生きていくためには、この世のものを食べてゆかなくてはならない(『千と千尋の神隠し』みたい)。「完全な拒食」は「外界の完全な拒否」。少女が内奥に抱える辛さの深さ。著者は覚悟を定めて少女と向き合う。

「わがままらしいわがままを言ったことのない子だった」。しかし少女は物語を作る遊びのなかで、「超わがままなお姫さま」を登場させる。カウンセラーである著者に対しても、何度もわがままを言ってぶつかってくるようになる。その物語のお姫さまは、やがて、「かぐや姫」になった。

ある日、少女は著者に対して、「絶対に間違ってはいけないリズムゲーム」を要求。このカウンセラーは、本当に自分と向き合ってくれるのか? 少女がその存在をかけて試しにきた。何とか要求に応えた著者は、しばらく放心状態になるほど疲労した。

いったんできあがった信頼関係。少女は久々に病院から実家へ外泊すると言い出した。実際に外泊して、帰ってきた少女に、著者が気安く声をかけると「大っ嫌い!」。久々の外泊は、少女にとって大変緊張するものだったはず。そのことに気付かなかった…

幸い、少女は来診を続けてくれた。そして治療の終盤に、彼女が描いたものは…

あとは読んでのお楽しみ(^^)

キーワードは「かぐや姫」。かぐや姫は、求婚してくる貴公子たちに、わがままを言いたい放題。月へ帰るときも、翁との別れに涙するが、羽衣を身にまとうと、何事も無かったかのように朗らかに天空へ…
そういうあらすじを、少女自身は、よく把握していなかった。それなのに、少女の行動は「かぐや姫」と暗合する。
いまも語り継がれる古典は、もしかすると、人間の内奥から生まれてきたものなのかもしれない…

辛さを抱える子どもと向き合う、著者の岩宮恵子さん。その真摯さ・誠実さが伝わってくる文章でした。同じように辛さを抱える子どもたちと自分が対面したとき、とてもいい手がかりになりそうな本です。大事にとっておこう…

なお、「ひとは、何かを失うとき、物語を必要とする」という考え方は、小説家・小川洋子さんの講演のなかにも出てきます。小川さんは河合隼雄さんとの対談本(『生きるとは、自分の物語をつくること』)も出しています。これも面白そうo(^-^)o

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