【読書】柏木惠子×平木典子『家族を生きる』東京大学出版会

柏木惠子×平木典子『家族を生きる』東京大学出版会 2012.9.19
http://www.utp.or.jp/book/b306451.html

柏木惠子さん(家族心理学者)×平木典子さん(家族臨床心理士)。研究者と臨床家による対談。

(1)葛藤解決能力

晩婚化・非婚化の一因に「葛藤を解決する能力の低下」がある。「親密な関係」とは、「葛藤や問題が生じない安定した関係」ではなく、「葛藤や問題が生じても協力して取り組んで関係継続の努力ができる関係」である。
結婚したら、まずは「出産育児とお互いの仕事との関係をどうするか」の葛藤が生じる。その葛藤を見すえて、結婚前にお互いのキャリアについてよく話し合っておくべき。

(2)育児

日本の家庭では、出産によって性別役割分業が完成する。働く男性×育児する女性。「育児は女性がするべき」。その観点から育児支援制度も構築。女性に対する育児支援制度ばかり。ジェンダー(ケアする女性×ケアされる男性)の固定化。妻においては「自分はケアしているばかり」という不公平感が高まる。夫の「他人に対するケア能力」も育たない。

専業主婦として子育てに集中して力を注ぐことになると、課題達成育児になりがち。何々ができるようになった。いい成績を修めていい学校に入った。しかし、その育児方法では、子どもは「所属と愛の欲求」(存在そのものの肯定)の満足がないまま、その満足の代替として「承認欲求」ばかり追求することになる。

「親は子どもに全力で愛情を注ぐべき」なのか。親の力にも限りがある。親が子育てに全力を尽くした結果、子どもは何でもやってもらいすぎて自立できない人間になり、親も自分で生きていく生活基盤を構築しそこねて子どもに依存せざるをえなくなる、相互依存関係ができあがることもある。しかし、何でもやってもらってきた子どもが、高齢になった親をケアすることが、果たしてできるか。親からの自立、子どもからの自立を見すえた子育てを。

なお、こうした親子連合は、現在の育児環境では、母子に成立しやすく、父が定年退職してみてはじめて家庭に居場所がなくなっていることに気が付くことも。

子どもが自立した夫婦も、長寿化から、子育て後に長い夫婦の時間を持つことになった。その時間をお互いにどう過ごすか。夫婦で話し合っておくべき。

(3)介護

柏木さんからの問題提起。「子どもは親を介護するべきなのか?」。地域で介護する、社会で介護する必要性。親の人生は親の人生。子どもの人生は子どもの人生。親子で、将来の介護について、普段から話し合っておくべき。

男性による介護は「課題達成型」。運動能力が維持できた。食事を確保できた等。しかし、本人の望む支援が何なのか、汲み取ることは忘れがち。

読みやすく面白かったです。おすすめ。

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