【読書】河村小百合『中央銀行は持ちこたえられるか』集英社新書

河村小百合『中央銀行は持ちこたえられるか』集英社新書 0858A 2016.11.17
http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0858-a/

著者は日銀出身。
日本銀行は、黒田総裁になってから、「異次元の金融緩和」として、国債を大規模に買い入れてきた。民間金融機関からの買い入れ。この買い入れは、財政法5条が禁止する「日本銀行が政府から国債を買い入れること」と、実質では同じことである。

その結果、民間金融機関は、日銀から国債の対価として受け取った莫大なお金を、日銀に当座預金として預けることになった。その残高は、300兆円を超えた。
その利払いが問題になる。いまはゼロ金利どころかマイナス金利なので、問題は表面化していない。しかし、日銀が、国内外の情勢に鑑み、金利の引き上げをすべきことになったとき、問題は表面化する。金利を1%上げたら、当座預金に関して3兆円の利払いが発生するのである。この利払いのための引当金として日銀が積みはじめた金額は年間で数千億円ていど。日銀の資本金は1億円、準備金は3.2兆円、引当金は4.3兆円。現在の状態を解消するには長期間(一部の試算では20年以上)かかるのに、その間の金利上昇に備えるには、とても足りない。そのため、日銀が金利を上げようにも、自らが財政破綻してしまうため、金利を上げることができない局面が起こりうる。その結果、日銀がインフレを止めることができなくなる。

EU・アメリカの中央銀行は、このような事態を避けるために、日銀のような異次元の金融緩和政策は、採用しなかった。もともと、日銀のゼロ金利政策の結果から、彼らは学んでいた。「民間金融機関に資金を注入しても、ゼロ金利のもとでは、その資金は市場まで行き渡らない」。いずれアメリカの中央銀行が、量的緩和から、金融の引き締めに舵をきる。そのとき日銀は対応できるのか。最初の試練が来る。

日銀による政府からの国債の引き受けは、太平洋戦争中、行われていた。敗戦後、その償還が問題に。インフレのなか、政府は、その償還に、預金封鎖、そして財産税(国民一人一人へその財産総額について課税)で対応した…

一般市民向けの講座が本になったもの。わりと読みやすい。おすすめ。

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