【読書】堀田百合子『ただの文士 父、堀田善衛のこと』岩波書店

堀田百合子『ただの文士 父、堀田善衛のこと』岩波書店 2018.10.12
https://www.iwanami.co.jp/book/b376417.html

 作家・堀田善衛さんの娘さん、百合子さん。没後20年、お父さんの思い出をつづる。
 戦後、怪獣映画モスラの第一作は、脚本を、お父さんや、その仲間たちが手がけた。その頃、百合子さんは小学生。学校で「モスラの子」と呼ばれたくなくて、お父さんが堀田さんであることを、ひた隠しにしていた。そんな微笑ましいエピソードも(^^)
 50代のおわり、堀田さんは大作『ゴヤ』を完結。ゴヤは、堀田さんが学生時代から温めてきた、積年のテーマだった。ちょうど同じ時期に、親友だった武田泰淳さんが他界。堀田さんは「身も世もない思い」。それがスペインへの旅立ちへつながってゆく。
 スペインへ向かう船の上で、堀田さんが書いたエッセイからの言葉たち。「これから、生き直そう」。「私にとっての<老い>を、成熟させる」。堀辰雄さんが訳したポール・ヴァレリーの言葉、「風立ちぬ、いざ生きめやも」も出てくる。
 スペイン滞在を通して、堀田さんは『定家明月記私抄』『路上の人』『定家明月記私抄・続篇』を執筆。藤原定家の生涯を小説にしたところ、「定家さんがモンテーニュを連れてきた」。モンテーニュが主人公の『ミシェル城館の人』を執筆開始。その執筆を通して、堀田さんは、こう述懐する。「精神の自由を手に入れた」。「一つの生命が崩壊するのは、他の多くの生へ推移して行くことである」。堀田さんの<老い>の成熟。70代が目前の百合子さん、もし堀田さんに再会できたら、聞いてみたい。「生き直せたの?」。
 堀田さんの後期主要作品群は、「<老い>の成熟」。70代を迎えようとする、百合子さんならではの鋭い指摘。まだ読んでいなかった『定家明月記私抄』以降の作品群が、がぜん興味深くなってきました。素敵な一冊でした(^^)

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