【読書】駒村康平『日本の年金』岩波新書

駒村康平『日本の年金』岩波新書 新赤版1501 2014.9.19
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/43/8/4315010.html

 著者は、元・厚生労働省顧問。「社会保障制度改革国民会議」の委員。
 日本の年金制度に関し、現在の問題を網羅的に検討する一冊。
 個人的に気になった記述をいくつか紹介します。

□ 今後の見通し

 年金財政を安定化するため、今後、年金の給付は、もっと抑えることになるだろう。
 給付抑制の方法は、つぎの2通り。
① 年金支給額を引き下げる(マクロ経済スライド)。
② 年金支給開始年齢を引き上げる。この本の執筆当時、日本は、65歳まで引き上げる移行期間。他の先進国では67歳・68歳にしているところもある。

 ただ、年金の給付を抑えると、その分、貧窮する高齢者が増える。いま、低年金・無年金の高齢者の受け皿となっているのは、生活保護制度。生活保護制度の財政も破綻しないように配慮する必要がある。

〔中島コメント〕

 私の世代が支給を受けることのできる年金額は、もっと減っていくんですね。しかも、支給の始まる年齢も、65歳よりも更に高くなる可能性がある。ひょっとすると、私の世代は、望む・望まないにかかわらず、短くとも60代の後半までは働くことになるのかも… ちなみに私は、アタマ・カラダが動くかぎり、働き続けるつもりです(^^)

 支給を受けることのできる年金額が、もっと減っていくかもしれない。そうなると、「払い込んだ保険料の総額」に対して、「受け取った年金の総額」が低くなる可能性は、もっと上がるでしょうね。
 ただ、年金については、もはや、「総額で比べて損か得か」という視点で考えるよりも、「老後の定期収入を確保する」という視点で考えたほうがよいのかもしれません。私は、最近、そういう考え方に傾いてきました。
 老後、働いて稼ぐことができなくなった後に、病気や介護で大金を使う可能性がある以上、「貯蓄を取り崩していく」よりも「毎月の収入の中から費用を払っていく」という収支形態をとることができるようにしておいたほうが、自分自身としても安心できる気がします。

 年金制度の安定化によって、生活保護制度にしわよせがいく… それはそうなるだろうなぁ。こういう話の根っこにある問題は、「これから少子化・高齢化がどんどん進んでゆくなかで、増えていく高齢者を、現役世代がどのように支えていくのか」ということなのでしょう。

□ 望ましい年金制度

(1)一元化

 年金制度を厚生年金(所得比例年金)に一元化する。
 同時に、厚生年金の適用範囲を非正規労働者にも拡大する。
 この一環として、国民年金を定額方式ではなく報酬比例方式にする。
 そもそも、「保険料も給付額も定額方式の国民年金」は、他の先進国と比べても、特異な制度。定額方式になった原因は、敗戦直後、年金制度を日本が構築するときに、自営業者の所得を把握することが難しかったため。所得をある程度正確に把握する技術が整っている現在、改めて制度を構築しなおすべきである。

(2)最低保障年金または公的扶助等

 所得比例年金制度においては、現役時代の所得が低く、それに伴って、年金の金額も低くなるひとが出てくる。そういうひとたちの生活を支える仕組みを設ける。最低保障年金または公的扶助等。

(3)安定化

 年金財政を安定化する。マクロ経済スライド等、高齢化や経済の動向に応じて、年金給付額を減額する方法は、やむをえない。そして安定化のためには、経済成長が不可欠である。

 以上の望ましい方向性からみると、民主党政権時代の年金改革の方向性は、上記の内容と似ていて、間違ってはいなかった。消費税の増税による、年金支出における国庫負担の引き上げもした(1/3から1/2へ)。しかし新制度への移行を急ぎ過ぎた。世代間の公平を考えた上で、国民の納得するかたちで改革してゆくには、最長で40年かかる。

〔中島コメント〕

 国民年金の定額方式って、日本に特異な制度だったんですね。たしかに、自営業者の私自身、所得の上昇に比例して年金の保険料・将来の給付額が上がるわけではないので、その分、上乗せの年金づくりを考える必要があって、ややこしいなぁとは思っていました。

 年金財政の安定化のためには、経済成長が不可欠。そうは言うものの、どうすれば、これ以上、成長できるのかなぁ。この本には「ひとつの方法は技術革新である」と書いてありました。なんだか一般的な話… そもそも「成長」って何なんだろう。よく耳にしますが、私には正確な意味が分かりません。私が勉強不足なだけなのかな…(^_^;)

 この本の出版後、消費税10%への増税は見送りになりました。また、年金積立金管理運用独立行政法人(GRIF)における運用金の運用方針が、より積極的な投資(ハイリスク・ハイリターン)に向かうこととなりました。どちらも、財政再建よりも経済再建を優先する方向です。うーん、日本の年金に関する、財政の安定化は、まだまだ見通しが立たないですね。

 補足。この本には、個人の年金の上乗せを考えるにあたっては、公的制度(賦課方式:国民年金基金等)と私的制度(積立方式:確定拠出年金等)の両方にそれぞれのリスクがあるので、どちらか一方に加入するのではなく、両方に加入してリスクを分散するべきと書いてありました。なるほど(^^) 公的制度のリスクは、政策によって給付金額等が影響を受けること(政策リスク)。私的制度のリスクは、運用によっては積立金が目減りしてしまうこと(運用リスク)。

Follow me!