【考えの足あと】2022年・回顧

 皆様、本年も、大変お世話になりました。
 お仕事を下さった皆様、応援して下さった皆様に、心より御礼を申し上げます。

 今年は、テレワークの導入、出産・育児の支援、地方への進出の支援に、取り組んだ一年でした。

1 テレワークの導入

 遠隔地から、事務所のデスクトップ・パソコンに、ログインできるシステム。そのためのセキュリティ・システム。
 オンライン面談システム。
 複数の人間が、同時に会話することのできる、マイク・スピーカー。
 これらのシステムや機器の導入によって、当事務所においても、テレワークができるようになりました。

 テレワークを始めてみて、問題になったこと。それは、戸籍・住民票等、それらの原本を取り扱う必要のある仕事が、テレワーカーさんには、実際上、やはり担当できない、ということでした。ただ、この問題は、テレワークについて導入する前から、見通しのついていた問題ではありました。この問題について、いま、当事務所内では、いままで一人で担当していた案件について、「原本を取り扱う作業」と「原本を取り扱わない作業」との、二人以上での分業が、生まれつつあります。

2 出産・育児の支援

 まず、とにかく、生まれてきた赤ちゃんが可愛い!(笑)
 オンラインの画面ごしに、私が「〇〇ちゃーん」と、呼びかけたら、柔らかい身体で、ムニムニと動きながら、「あうー」と、答えてくれました。「あうー」、最高の返事です。この返事で、おじさんは、当分、頑張れそうです。

 この一年弱、子育てしながら働くスタッフさんと、ともに働いてみました。
 急な発熱。保育園でコロナが発生。それらの事情によって、赤ちゃんとともに、その親御さんも、休まざるを得ないことが、往々にして、起こりました。
 このようなことが起こることは、家族心理学者・柏木惠子さんが、既に指摘していました(『おとなが育つ条件』岩波新書)。

――子育てとは、立てていた予定が崩れることに、付き合っていくことである。

 このようなことに、付き合ってゆくことも、事務所において、子育てを支援してゆくためには、必要なことです。
 親御さんの欠勤。その欠勤によって、そのスタッフさんが担当するはずだった作業のうち、依頼者の方々に対する応答は、なかなか先延ばしにはできません。そのため、その作業は、他のひとが、対応することに、しばしば、なりました。
 その結果、自ずと、そのスタッフさんの担当する作業が、事務作業(書類作成)に、だんだんと、なっていきました。子育てしながらの仕事に、このような陥穽があることは、たとえば、野村総合研究所の研究員である武田佳奈さんが、『フルキャリ・マネジメント』(東洋経済新報社)において、指摘していました。やっぱり、こういう問題が、起こったか。どうしたものか。そのように、個人的に、いま、思案している状況です。
 その思案について、本稿において、明答は出ないままであっても、若干の進行を、試みてみます。

  受注 ⇒ 設計 ⇒ 生産(書類作成)

 当事務所においては、このような作業工程があるところ、「受注」や「設計」を担当する人員が少なくなって、「生産」を担当する人員が増えることになりました。
 特に、「設計」は、重要な作業です。「設計」が完了してはじめて、その後の「生産」が進み始めることになります。ただ、「設計」という作業は、知識と経験とが相まって、更に、熟考する時間があってはじめて、可能になります。一朝一夕には、できるようには、なりません。
 「設計」に関しては、今年、私の、経営者としての仲間との間で、次のようなやりとりがありました。そのひとは、今年になって、新たな事業を、立ち上げたひとでした。

――新しい事業だからね。さしあたりは、私自身が、受注・設計を担当しないと…
――さしあたりは、それでいくとして、特に「設計」を担当するひとは、どうやって育てるつもりでいますか? その方法について、私も思案しています。
――いや、それは、私も誰かに聞きたい(笑)

 「設計」ができるひとに、どのように育ってもらうか。そのことは、私のみならず、他の経営者さんたちにとっても、共通する問題であるようです。
 ちなみに、この問題について、考えるヒントとして、工学者・畑村洋太郎さんが、『技術の創造と設計』(岩波書店)という書を、著しています。
 また、ここまで書いてきて、私は、任天堂の元社長である、岩田聡さんの言葉も、思い出しました(ほぼ日刊イトイ新聞『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』ほぼ日)。

――私は、当初、「私が3人いればいいのに」と、考えていました。
――しかし、それは、おこがましい考えでした。
――誰しも、私にはない能力を、持っているものなのです。

 たとえば、私は、「受注・設計」について、先に述べたように、得意気に書いていますけれども――それすらも思い上がりかもしれませんけれども、その分、バックオフィス(経理・労務・総務)が苦手だったりします。そのバックオフィスを担当してくれているスタッフさんたちに、私は、いつも、感謝の念を抱いています。
 それぞれのひとが、得意なことについて、分業することによって、組織というものは、成り立つものなのでしょう。
 そして、総じて、私は、心理学者・河合隼雄さんの、次のような趣旨の言葉をも、思い出します(『働きざかりの心理学』新潮文庫)。

――どの組織においても、「負け戦」について、責任を取ることのできるひとが、必要である。

 この言葉は、ひらたく言いかえれば、次のような趣旨になるでしょう。

――どの組織においても、理想的な人員、理想的な資源が、揃っていることは、あまりない。
――組織は、現実にいる人員、現実にある資源をもとに、何とか、受注した仕事に対して、納品をしてゆくものである。

 私も、いったん、「テレワークの導入」「出産・育児の支援」「地方への進出の支援」を選んだからには、そのことについて生じてきた問題を言い訳にはせずに、受注から納品までを、何とか完遂するようにしてゆくつもりです。
 それに、問題が生じるからといって、これまでのように、少子化につながってきた、都市における「会社人間」「企業戦士」のような働き方へ、後戻りをするわけにも、いかないでしょう。
 せっかく、自分が起業した事務所で、子どもが生まれてくること、育ってゆくことについて、支援することを始めることができたのですから、これからも、そのことについて、じたばたしながら取り組んで、活路を見い出してゆきたいです。

 付記。そもそも、負けることが分かっている戦なのであれば、戦うべきではないでしょう。「負け戦」という、河合さんの言葉は、言葉どおりではなく、私が言いかえたような意味で、理解するべきなのでしょう。

3 地方への進出の支援

 地方へ進出するひとが、その地域に根付くまで、テレワークで働いてもらう。仕事と収入とを、得てもらう。
 そのようなことも、テレワークの導入によって、ある程度、できるようになりました。
 そして、私自身にとっても、そのひとから、「地方へ進出してみて、実際どうだったか」について、うかがう機会ができ、学びになっています。
 これからは、そのような働き方について、雇用から業務委託への切り替えが、生じるかもしれません。その切り替えにあたって、私としては、労働政策学者・濱口桂一郎さんの『フリーランスの労働法政策』(労働政策研究・研修機構)から得た知見を、活かしてゆくつもりです。

4 まとめ

 新しい働き方の導入。その結果としての、労働力の縮小。
 そのことによって、収支が赤字になるかもしれない。そのような覚悟も、個人的に、期初には、していました。それでも、何とか、今年も黒字になりました。
 皆様から頂戴したご厚意に、また、スタッフの皆さんの頑張りに、あらためて、心より、御礼を申し上げます。

 私の仕事と人生において、ずっと私を支え続けている、教訓があります。
 その教訓は、作家・大江健三郎さんの『ヒロシマ・ノート』(岩波新書)から、得た教訓です。

――生きるための努力。
――その努力は、たとえ、実る保証がなくても、続けるべきもの。
――そのような努力は、続けていてはじめて、実ることがありうる。

 また、来年も、生きるための努力を、続けてゆきます。

 皆様、来年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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