【読書】中野円佳『「育休世代」のジレンマ』光文社新書
中野円佳『「育休世代」のジレンマ』光文社新書 713 2014.9.17
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334038168
濱口桂一郎さんの『働く女子の運命』は制度論。
本書は実際の経験者たちへのインタビュー。
対象は、総合職正社員で結婚出産育児を経験してきた15人。実際に直面した問題を語る。
読むべき一冊に行き当たった印象。
「育休世代」は、1985年前後に誕生した世代。育休制度が整った状態で就職。
この世代は、いま、30そこそこなので、結婚出産育児を経験してきたグループは、ほとんど20代のうちにこれらを経験している。結婚出産育児を早めた一因が、「遅くなるほど不妊になりやすい」という風説。
□ 「男性並み女性」が退職傾向
男性並みにバリバリ働いてきた女性ほど退職する傾向がある。
「女性扱いされたくない」
→ 「男性並みに働きたい」
→ 出産に伴う環境変化に対して何も準備しない(就職活動で職場環境を考慮しない・責任ある仕事に没頭する)
→ 環境変化に対応できず退職
なお、「自立した女性」志向は、割合としては女子校に多い。共学のほうが、男女の性差を認識する機会が多いので、その性差を意識した上で、進路選択をしてゆく傾向がある。
※「バリバリ働いてきた女性ほど勤務を継続するんじゃないか」という先入観がありましたので、驚きです※
□ 社会からの要求 「自己実現×出産育児」
学校教育では「自分のやりたいことに取り組んで、その目標を達成しなさい」。
一方で、少子化問題が共通認識となった社会からは、「早く結婚して子どもを産んで育てなさい」。
育休世代は、社会からの「自己実現×出産育児」要求の挟み撃ちにあっている。
しかし、「どの程度の自己実現を目指すのか」「結婚するのか独身でいるのか」「子どもを産むのか産まないのか」は、本来、個人の自由であるはず。
※選択は個人の自由。その通り!※
□ 職場環境
柔軟な勤務制度は重要。週4日。短時間。フレックス。在宅。
その制度の利用について、上司・同僚が理解する企業風土も重要。
そして人事評価にあたっては、あくまでも、その勤務形態を基準とした評価を。長時間労働形態と比較して、「長時間労働をしていないから」といって評価を下げてはいけない。
ただし、同じ職場でフルタイムで働くひとたちとの公平のため、給与を調整したほうがよいこともある。そのほうが当人も気が楽になることも。
仕事の時間・量は調整しても、内容は維持するべき。やりがいにかかわる。
過剰な配慮から、総合職なのに一般職の仕事ばかり回すようになる職場もある。それではかえって仕事への意欲を削ぐ。
だからといって、子どもがいることを無視して、以前のように長時間労働を要求しても、対応は難しい。
なお、社内保育所については、そもそも「子どもを連れて通勤可能か」に配慮するべし。
※柔軟な勤務制度の整備、やっぱり大事なんですね※
□ 夫選び
20代の結婚理由は、経済条件よりも、「好きな相手と一緒にいたいから」。妊娠出産も、計画するよりも、「タイミングを計っていたら、逆にタイミングを逃してしまいそう」。
同類婚の法則。自分と同じかそれ以上の学歴及び社会的地位の男性と結婚する傾向。
そうした男性と結婚することによって、自分の女性としての魅力を発揮できたことになる。
しかし、そうした男性ほど忙しい。長時間労働。転勤もある。時には海外勤務も。
男性並み意識で働いてきた女性ほど、「長時間労働は仕方がない」。夫に育児支援を求めない。
その結果、育休によって一時的に生じた収入格差が、固定化してゆく。「夫:正社員×妻:専業主婦」の方向へ。妻ばかり育児しているので、子どもも母親になつく。結果として「やっぱり育児は母親の手でないと」という流れになる。
夫が「妻の好きなように働いてほしい」と言うとき、その言葉は「自分の仕事を育児のために調整しても、妻のやりたい仕事ができるよう支援したい」という意味まで含んでいるか?
※それぞれ自己実現を目指してきた夫婦には、子どもが生まれることに伴い、「どちらの自己実現をどれだけ抑制するか」という葛藤も生まれるんですね※
なお、転勤は、正社員×専業主婦が主流だった時代だからこそ成立した働き方。共働き時代には、転勤制度は適していない。現状、子育て中の共働き夫婦に転勤命令が出たら、彼らはどうするか。「仕事を辞めて夫についていって、その先、自分の職業人生はどうなるというのか」。単身赴任、別居を選択する傾向。しかし、転勤が相当長期にわたることになったら? 転勤制度は見直すべき。
□ 両親との関係
子どもを預けることへの葛藤。「体力面で辛そう」「せっかく子育てが終わったのだから、孫育てではなくて、自分のやりたいことをやってほしい」。
葛藤以前に、両親が祖父母の介護にかかりきりで、協力したくてもできないことも。
また、子育てに協力してもらうことは、反面、教育方針について関与を受けることにもつながる。
とくに母娘関係においては、専業主婦だった母が、「専業主婦の私が全力で貴女を育てたからこそ、貴女は大学を卒業して、きちんとした仕事に就くことができた。貴女も子育てに全力を注ぎなさい」。この論法に、娘は反論しにくい。
※「せっかく子育てが終わったのだから、自分のやりたいことをやってほしい」。気持ち分かるなぁ※
□ 子どもができたことによる心境の変化
すくすく育ってゆく子ども。成長に向き合う、かけがえのない時間。
「この時間に代えてまで、いままでのように働くべきか?」
心境の変化。
長時間保育、二次保育の利用が進まないことにも、同じ心境が影響。「そんなにずっと子どもを預けてまで、この仕事をするべきなのか?」。
※男性無限定正社員制度がいままで何十年も続いてきましたけど、こういう心境の変化って男性にはなかったのかなぁ。企業が、そうした心境の変化に対応できる制度を用意してこなかったのかなぁ※
□ 改革の理念
「女性の管理職を増やしていく」。しかし、「男性並み女性」が増えても、改革したことにはならない。女性の活躍が進んでいない原因は、女性が主に家庭での家事育児介護に従事しているから。「家庭での家事育児介護にも従事する管理職を増やしていく」。これが本来あるべき方向性。
※鋭い意見です。同感※
実感のこもった鋭い指摘がたくさん。繰り返し読みたい基礎文献。おすすめです(^^)