【読書】畑村洋太郎『技術の創造と設計』岩波書店

畑村洋太郎『技術の創造と設計』岩波書店 2006.11.8
https://www.iwanami.co.jp/book/b264697.html

〔要約〕

著者の畑村洋太郎さんは、機械工学者。日本の機械設計について、研究を重ねてきた。
その集大成となる一冊。

技術は時代によって変化する。時代と共に、その技術にまつわる制約条件も、変化するためである。
ひとつの技術が隆盛して衰退していく周期は、おおよそ30年。大きな失敗による事故も、同じような周期で起きる。

新しいものを生み出すとき、最初からうまくいく確率は、「千三つ」。1000回のうち997回は、失敗する。
十分に準備検討を重ねた上での失敗。その失敗を活かしてゆくことこそが、新たな技術の創造につながる。

失敗してこそ、その技術の本質が分かる。
技術の本質。まず、「その技術を構成する要素」がある。その要素たちが「構造」となって、ひとつの技術になっている。
ひとつの技術を理解するためには、その「要素」たちを摘出して、その要素たちが、どのように組み上がって、ひとつの「構造」を成しているのか、理解する必要がある。

技術の創造についても、同じ考え方を用いることができる。
まず、その技術について、全体として「要求されている機能は何なのか」、考える。
そして、要求されている機能を、ひとつひとつの「機能」に分解する。
ここまではイメージの段階。
次に、その機能を実現するためには、どのような「機構」(部品)があればよいのか、考える。
そして、それぞれの機構(部品)を組み上げて、どのような構造にすればよいのか、考える。

「要求機能→機能→機構→構造」

技術の創造にあたっては、この流れで考えてゆくとよい。

〔中島コメント〕

私の事務所のスタッフさんたちに、自分の技術を、どのように伝えてゆけばよいのか。
そして、自分たちの技術を、どのように高めてゆけばよいのか。
そのことについて考えるために、とてもいいヒントになる本でした。

よい例として、本書のなかで出て来た「たたら製鉄」の話が印象的でした。
たたら製鉄の責任者さんは、製鉄のための炉の仕組みを熟知していて、その炉の様子(熱・風・音)から、いま内部がどんな状態になっているのか、まるでリアルタイムで内部を覗いたかのように分かるとのことでした。
だからこそ、その責任者さんは、鉄の原材料の仕入元が変わって、入ってくる原材料の質が変わっても、一定の品質の鉄を作り出すことができる。必要ならば、炉の構造自体を変えることができる。
この姿が、技術者として理想的な姿である。そう畑村さんは紹介しています。

また、もうひとつ、印象的だった話があります。
とある工場の工場長さん。一日の仕事について、それぞれの作業に費やしている時間を計ってみたら、「管理システムへ、その日の指示監督についての報告を入力している時間」が大半だったそうです。
人間の活動を支援するためのシステムが、逆に、人間の活動を制約している。その典型例でした。

こうなってくると、「システムとは何だろう」という疑問が、あたまをもたげて来ます。

たとえば、不動産登記・商業法人登記。
どちらも、不動産登記制度・商業法人登記制度というシステムが、まずあって、そして更に、そのシステムのためのシステム(申請用総合ソフト等)が、存在しています。
そして、その「システムのためのシステム」が、どういう仕組みになっているのか、本質が理解できないまま、現場の人々は、その「システムのためのシステム」を使って、仕事をしています。そして、そうした状況が続くうちに、「システムのためのシステム」が止まったら、その人々が、それ無しで仕事ができるか、心許ない状況になってきています。
このような状況から考えると、私の事務所で、私たちが修得するべき技術は、「システムのためのシステム」の運用のための技術ではなく、そもそもの「不動産登記制度・商業法人登記制度」の運用のための技術なのでしょう。
そのためには、あらためて、実務に即して、不動産登記制度・商業法人登記制度が、各法律の条文上、そして行政解釈上、どのような仕組みになっているのか、理解してゆくことが必要です。
今後の学習の方針について、とてもいいヒントを得ることができた一冊でした。

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