【読書】座談会/経産省次官・若手プロジェクト「不安な個人、立ちすくむ国家」をめぐって

座談会/経産省次官・若手プロジェクト「不安な個人、立ちすくむ国家」をめぐって
スタジオジブリ『熱風』2017年11月号
http://www.ghibli.jp/shuppan/np/012801/

 「不安な個人、立ちすくむ国家」。経済産業省の若手官僚さんたち(20代30代)によるレポート。いま日本社会が抱える問題、そしてそうした問題を抱える日本社会のなかで、個人がどう生きていけばよいのかを探る。
 このレポートについての座談会。社会学者・小熊英二さんの指摘が新鮮。小熊さんによると、日本社会は、3グループに分かれているという。

 第1グループ 地域に足場のある自営業
 第2グループ 大企業正社員・公務員
 第3グループ 第1でも第2でもない人々

〔第1グループ:地域に足場のある自営業〕

 収入は高くはない。国民年金のみ。
 しかし、定年がないので、ずっと働くことができる。信頼関係に基づいた人的ネットワークによる相互扶助もある。高齢になっても、地域において、仲間と家族に囲まれながら、仕事を続けることができる。
 更に、地域団体を通じて、第2グループから国が徴収した資源の再配分も受けることができる。地域団体は某政党の票田でもあるので、このグループには政治力がある。
 地域に足場があるということは、地域に実家があるということでもあるので、持家(実家)がある。住宅を新たに購入する必要がない。
 以上、定年なし、相互扶助あり、資源配分あり、持家あり。だからこそ、年金制度としては、「国民年金のみで差し支えないだろう」ということになる。

 ※中島コメント※

 ① 自分に相当あてはまるのでビックリ。自由に生きてきたつもりでも、第1グループに落ち着きつつあります。お釈迦様の手の上で得意になっていた孫悟空みたいな気分。世の中のしくみってすごいんだなぁ。

 ② いままでは、自分自身、第2グループの生き方を問題にして、「そこから生き方をどう変えるか」という視点でばかり考えていました。視野の狭さ。しかしむしろ、私は、第1グループの生き方について、「いままで・これから、どんな問題があって、どんな対応が必要なのか」を考える段階に来ているようです。

 ③ このモデルからすると、いまの自分にないものは、持家です。そう考えると確かに、いまの生き方を続けてゆくことを前提にすると、老後の支出を抑えるためには、豊島区内に(特に立教大学の近くに)住宅を購入しておくことが合理的ではあります。なんだかどんどん、第1グループのモデルに、はまっていく印象…

 ④ 「自営業はローンが組みにくい」という話にも、得心がいきました。世の中のしくみとして、「自営業として生きてゆくひとびとには、もともと持家があるのが当り前」ということだったのでしょう。

 ⑤ それにしてもどうして某政党は、地域団体をあんなにまで票田にできているのでしょうか。票田を固めてきた方法、その長年の経緯に興味があります。

 ⑥ 私学の機能。豊島区の自営業の方々には、立教出身のひとも結構います。ひょっとしたら、立教学院は、豊島区に自営業候補者を輩出していく機能も担っているのかも…

〔第2グループ:大企業正社員・公務員〕

 収入は高い傾向。厚生年金・健康保険。社会保険は充実。
 しかし、定年がある。定年後は、仕事がなくなり、地域に根ざした人的ネットワークもなく、やることがなくなる。また、この生き方で働いているうちは、長時間労働の上に、勤務場所も選ぶことができないので、仕事一辺倒になりがち。そうなると、定年後に、家庭にも居場所がなくなる。
 このひとびとは、就職の段階で(またはそれ以前の就学段階で)実家から出ていく。そこで、住宅を新しく購入することが必要になる。そして、住宅ローンを組んで住宅を購入することになる。住宅ローンのしくみも、このグループのひとびとを対象としたしくみになっている。
 地域団体に参加しないので政治力がない。だから、資源の再配分について、引き寄せる力が、第1グループのひとびとより弱い。
 なお、女性は、当初、男性正社員×専業主婦という夫婦モデルのなかの「専業主婦」として、この第2グループに入っていた。その状況では、離婚してシングルマザーになることは、第2グループから出ていくことを意味していた。

 ※中島コメント※

 第2グループが「安定」の代表格という見方があります。収入、社会保険、住宅。しかし、第1グループという比較対象ができると、その「安定」とは、どういう意味での「安定」なのか、分かってきます。第2グループの「安定」とは、「自由」「地域」「家庭」「老後」と引き換えで手に入れる「安定」のようです。

〔第3グループ:第1でも第2でもない人々〕

 例えば、都市部の中小企業被用者、非正規雇用労働者、シングルマザー。多様な属性。
 いままで見てきたように、社会が支える対象としているのは、第1グループ・第2グループに属するひとびと。だから、第3グループのひとびとは、「第1でも第2でもない人々」という引き算でしか捉えようがない。
 人的ネットワークによる相互扶助・資源配分、社会保険、収入、どの支えもないので、貧困に陥りやすい。その一方で、企業家として大成功しているひとも、この第3グループには入っている。
 貧困に陥りやすいのに、第3グループに属するひとびとは、多様すぎて共通基軸がないので、団結しにくい。だから政治力も弱い。
 この第3グループに属するひとびとが増えてきたことが問題。第1グループ(地域)からは都市部・大企業・公務員への人材流出が起こった。それなのに、第2グループ(大企業正社員・公務員)では、雇用の非正規化が進んだ。その結果、生き方として行き場のないひと(社会からの支えのないひと)が増えた。

 ※中島コメント※

 ① 第3グループのひとびとにとっては、第1グループ入り(大企業正社員又は公務員になる)又は第2グループ入り(独立開業して地域に足場を作る)が、進行方向としては分かりやすいかもしれません。ただ、第1でもない第2でもない、独自の生き方を模索できる可能性も、もちろんあります。知り合いに、地方から東京へ出てきて、人的ネットワークなしで独立開業、今年で10期目を迎えた同世代がいます。これまでこの投稿で書いてきたことからすると、あのひとのド根性っぷりはすごいと、あらためて思いました…

 ② 仮説。ソーシャルメディアを使って、他人とつながりをつくっていこうとするひとびとには、第3グループに属するひとが多いような印象があります。企業で働くことで生活が完結しておらず、でも地域には人的ネットワークがないひとびとにとって、ソーシャルメディアは、つながりづくりのために利用しやすい交流方法なのかもしれません。

 新しい視野がひらけて、収穫のあった記事でした。読んでよかったです(^^)

Follow me!