【読書】金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」~生涯生活保障による国民統合~

金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603.html

 ひととおり、読んでみました。

1 数字と統計

 定年後に必要な生活費は、この報告書がモデルにした世帯においては、月額、おおよそ26.5万円。
 私が、ファイナンシャル・プランナーの学習において触れた数字に、近似していました。

 この報告書に出てくる、他の統計も、放送大学の教科書である人口減少3部作に出て来た統計と、ほぼ同様の結果を示していました。平均寿命、人口ピラミッド…

 個人的には、この報告書の示している、老後の生活設計、そしてその今後の問題は、「実際、そうなりそうだなぁ」と、結構納得のゆくものでした。

2 概要

 この報告書が述べていることの趣旨は、大まかには、下記2点でした。
A 年金・退職金によって生活を保障する、現行制度においては、老後の生活資金が、不足する。
B だから、国民は、もっと積極的に、資産を運用するべきである。

 Bは、「もっと投資を増やすことで、景気を良くしよう」という、政権の方針にも、合致する結論です。
 その結論を導き出すためのAが、政権にとっては、問題になりました。

3 生活保障と国民統合

 政権にとって、Aが問題になったのは、政権の支持基盤が、生涯生活保障による国民統合によって、成り立っているからでしょう。
 「政権の方針に従えば、生活は安泰なのであるから、政権の方針に従いなさい」
 このような構図で、国民の生活を保障することで、政権は、その支持基盤を獲得してきました。
 それが、政権による制度運営では、国民の生活が保障できないとなると、政権の支持基盤が、崩落することになります。

 ただ、問題なのは、もし実際に政権が支持を失うときが来たとして、その後に、政権を支持していた大衆が、自分たちで自分たちを統治してゆく能力を、持っているのかどうかです。

4 資産運用と資本主義

 この報告書が述べている、資産運用についての推奨。その根拠は、「長期・積立・分散投資の有効性」です。このように投資すると、長い目で見れば、リターンがプラスになると、この報告書は、主張しています。
 この主張、バブル経済期の「土地神話」を、個人的に、思い起こします。「土地の価格は、上がってゆく」。
 この報告書が述べている主張は、さしずめ「投資神話」です。「長期・積立・分散投資すると、資産の価格は、上がってゆく」。
 この主張は、資本主義社会が持続可能である限りは、正しいでしょう。この社会自体が、投資を繰り返して、成長してゆくものだからです。
 ただ、投資の限界、成長の限界を迎えているのが、いまの日本資本主義社会ではないのでしょうか。

 年金制度が発足したのは、太平洋戦争中のことでした。戦争国家として、国民を統合するには、福祉国家となることが、必要だったのです。
 軍事面での総力戦の末に、原子爆弾が広島と長崎に落ちて、日本は敗戦、連合国軍による統治を受けました。
 「歴史は繰り返さず、人これを繰り返す」。作家・堀田善衛さんの言葉です。
 戦後の日本社会の歩みが、経済面での総力戦であり、福島第一原子力発電所事故が、原子爆弾が落ちたことに相当する出来事であるなら、今後、日本が経済面において破綻して、国際機関による統治を受けるような、そうした歴史的な出来事が、起こりうるのではないでしょうか。
 そうなれば、「長期・積立・分散投資すると、資産の価格は、上がってゆく」という「投資神話」も、成立しなくなるのではないでしょうか。
 そうした懸念も踏まえて、どのように、生き延びていくか。そのことも、考えておいたほうがよい時期に、さしかかっているのかもしれません。

 宮崎駿さんの映画『風立ちぬ』に出てくる、主人公である二郎の台詞を、思い出します。
 「風が立つ、生きようと試みなければならない」

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