【読書】春日キスヨ『家族の条件』岩波現代文庫
春日キスヨ『家族の条件』岩波現代文庫 社会18 2000.7.14
https://www.iwanami.co.jp/book/b256267.html
著者の春日キスヨさんは、社会学者。結婚、教育、介護、それぞれの現場において、困難な状況に直面する男性たち・女性たちから、長年にわたり、直接取材してきたひと。1994年のエッセイ集。いまから25年前。
春日さんの結論。「現代の日本では、家族が成立するための条件が、整っていない」。民法学者、水野紀子さんが繰り返している指摘とも、共通するところのある意見。
家事育児に、孤独に取り組むこととなる、専業主婦。彼女は、子育てが終わったら、嫁として、義理の両親の介護に、取り組むことになる。しかも、嫁としての介護での貢献は、遺産相続においては、何の評価も受けない。
※ 今般の相続法の改正によって、被相続人に対する相続人の配偶者からの貢献について、金銭での請求権に転化できる制度が、導入となりました。この改正に至るまで、約70年がかかりました。
春日さんは、晩婚化、単身化の背景に、こうした「結婚した女性の陥る窮境」があるといいます。個人的にも、実際、そうなのではないかと考えます。
心理学者、小倉千加子さんの『結婚の条件』によると、現代の女性にとって、結婚相手は、「理性と打算で選ぶもの」であるそうです。
理性と打算で検討した結果、女性が「結婚は、しない方がいい」という結論に至ることが、晩婚化、単身化について、ひとつの要因になっているのかもしれません。
また、「理性と打算」を超えるものとしての「愛情」が、こうした社会制度を維持するための要素になっていることも、春日さんは指摘しています。
「愛国心」⇒「家族愛」⇒「母性愛」。
これらの愛情は、一連のもの。たとえ窮境に陥っても、愛情という名のもとに、女性が家族を愛して、家族に尽くすことが、現状を維持することに、つながっているのではないか。
鋭い指摘のいっぱい詰まった一冊でした。
そして、現代の日本における結婚という制度が、これから男性・女性が(またはLGBTのひとびとが)パートナーを組んで生きてゆくための参考にはならない制度だとすると、いったい、どのような制度が、参考になりうるのか、ということが、問題になります。
ひょっとしたら、明治以前、江戸時代にまで遡っての「家族による自営業」という生活の方法が、参考になるかもしれません。家族も仕事も、区別せずに、一体のものとして、必要な労力の配分を、調整しながら生活してゆく方法。
しかし、この生活方法が、「身分の固定」を伴ったものであったことについては、注意が必要でしょう。
あと、「愛情とは何か」という問題も、個人的に気になります。「愛国心」⇒「家族愛」⇒「母性愛」といった、制度が定義する「愛情」ではない、人間の自然本来からくる「愛情」とは、いったい、どういうものなのでしょう。
この問題に関するキーワードは「ともに生活して行く意思」「相手への誠実」かもしれません。まだ、個人的な直観です。