【考えの足あと】経営プリズム

 経営とは? 日々の仕事のなかで、実際の必要に駆られて、してきたことを、あらためて、じぶんのアタマで、捉え直してみよう… そうしてみたところ、このような図が、できあがりました。

1 経営の循環

 この図について、その発想のもとになった言葉は、「経営の基本は『資源⇒生産⇒販売』の繰り返しである」(上林憲雄ほか『経験から学ぶ経営学入門』〔第2版〕有斐閣)。
 この言葉から、私が経営において、していることを、私なりに整理してみました。整理してみると、私をはじめ、企業は、経営において、下記の行為を、くりかえしているようです。

・ 価値を生み出す
・ 生み出した価値を投資に回す
・ 投資をもとにした生産によって、価値を生み出す
× くりかえし

 経営という営為は、「価値」「投資」「生産」という断面を有する、プリズムのようなものとして、捉えることができるのでしょう。
 以下、それぞれの断面について、私の留意していることを、書き留めておきます。

2 価値

(1)利益=売上-経費

 この方程式は、金児昭さんが、『その仕事、利益に結びついてますか?』日経ビジネス人文庫のなかで、提示していました。

 企業は、大体が、複数の事業を、営んでいるものです。まず、それぞれの事業について、「利益=売上-経費」が、問題となります。そして、それぞれの事業を総合しての「利益=売上-経費」も、問題になります。こうした関係から、「黒字の事業が、赤字の事業を支える」ということも、起こり得ます。

(2)時間&単価

 それぞれの事業について、観察する視点としては、「時間」と「単価」が、有用です。

ア 私の事務所での事業

 たとえば、私の事務所での事業について、前記の視点から観察すると、下記の特徴が、見えてきます。

  商業法人登記 短時間×小単価
  不動産相続登記 中時間×中単価
  個人法務(主に成年後見) 長時間×大単価

 どの事業に、どのくらい、価値を、資金・時間・労力を、投資していくか。その判断が、経営においては、大事になってくるでしょう。

 なお、上記の特徴からしますと、「時間がかかる仕事ほど、単価が大きい」という傾向が、あるようです。「時間がかかる」ということは、「手間がかかる」ということでもあります。「手間」は、「労働」とも、言い換えることができます。

  手間 ⇒ 労働 ⇒ 時間 ⇒ 単価

 労働×時間=価値。この方程式が成立すること、個人的に、興味深いです。
 そして、この方程式は、生産者側において、成り立つものです。逆に、消費者側においては、この方程式は、成り立つのでしょうか。消費者は、自らが支払うべき対価を、どのような方程式で、算定するのでしょうか。

イ 意義&単価

 上記のアにおいて列挙した特徴は、あくまで一般的なものです。
 たとえば、成年後見においては、その執務に、長い時間を要しても、被後見人さんに、相応の財産がなく、単価が小さくなることも、ままあります。
 個人的には、成年後見における、被後見人さんたち、それぞれの財産の多寡については、富裕層・貧困層の、二極化が起きてきている印象が、あります。
 ただ、貧困層の方々に、成年後見人が就任して、然るべき身上監護・財産管理を提供することには、社会的な意義があります。また、そのような、報酬の金額が伸びない案件であっても、その案件において得た知見が、他の案件において生きることも、ままあります。この意義は、「社会的な意義」に比して、「経験的な意義」と言えるでしょう。
 そして、「意義」も「価値」と言えます。「価値」は、「貨幣での対価」を伴わないことが、やはり、あるのでしょう。「価値」と「貨幣」との関係については、後記7において、更に詳しく述べます。

ウ 短時間×小単価

 時間がかかる仕事ほど、単価が大きい。そうであるからといって、「長時間×大単価」である事業のみ、営んでいればよいわけでも、ありません。
 「短時間×小単価」である事業は、定時の運転資金に必要な、小口の収入を、生み出す事業でも、有り得ます。また、受注の頻度が高い事業でもあるので、顧客や、取引先との関係も、太くしやすいです。

エ ひとつの事業のなかの長短・大小

 時間の長短、単価の大小は、「事業と事業との比較」においての他に、「ひとつの事業のなかでの、業務と業務との比較」においても、問題になり得ます。
 たとえば、商業法人登記という事業のなかにも、下記の業務があって、それぞれに、下記の特徴があります。

  目的変更登記等 短時間×小単価
  募集株式発行登記 中時間×中単価
  組織再編登記 長時間×大単価

(3)境界の曖昧

 ある事業と、他の事業との境界は、実は、曖昧です。
 たとえば、不動産相続登記において、相続人のひとりが、行方不明であることがあります。この場合には、その案件は、「不在者財産管理人」または「失踪宣告」という、個人法務案件にも、なります。
 また、同じく不動産相続登記において、対象土地建物に、抵当権が付いたままで、その債務者が会社で、その代表取締役が被相続人であることが判明して、その退任登記が必要となることがあります。この場合には、その案件は、商業法人登記案件にも、なります。
 この「境界の曖昧」は、「事業という単位で、案件を捉える」という視点の他に、「そもそも、私たちが接近している現象は、どのような現象なのだろう」という視点が、あったほうがよいことを、示しているでしょう。

3 投資

 投資の行く先には、「フロー」と「ストック」があるようです。

(1)フロー

 「フロー」は、「定時の運転資金」。

 司法書士の事務所においては、「フロー」の中身は、主に、スタッフさんたちの給与です。
 その給与について、どのような考え方で、どのように算出するか。そのことについて、私の参考にしている考え方は、高橋伸夫さんの述べている「生活保障賃金」です(『虚妄の成果主義』ちくま文庫)。
 まず、ひとは、生計を立てるために、働くものです(小泉今日子×糸井重里「小泉今日子さんが、そうしていたから。」ほぼ日刊イトイ新聞)。その「生計を立てること」を、保障するために、賃金は、算出して、給与してゆくべきでしょう。
 「生活保障賃金」については、稿を改めて、詳述します。

 「その他の固定費」としては、司法書士の事務所においては、主に、家賃があります。
 家賃について、私が、感じていること。それは、「家賃って、なぜ、こんなにも高いのだろう」ということです。以前、オフィスの移転について、個人的に検討したことがあり、その過程で、池袋界隈の家賃相場を、調べたことがありました。そのとき、分かったことは、池袋駅の周辺にて、一定の広さの物件を、賃借するためには、家賃として、月額30万円以上の支出が必要になる、ということでした。
 このことから、私は、個人的に、司馬遼太郎さんの言葉を、思い出しました。「日本は、バブルの後遺症で、地価が高すぎて、ひとが、フライパンの上のアヒルのようになっている」(『風塵抄』中公文庫)。
 家賃は、その物件の所有者の収入になります。その家賃が、高いという、現象。この現象について考えるためには、司馬さんの指摘する「バブル」について調べることと、トマ・ピケティの『21世紀の資本』みすず書房を読むことが、有効そうです。

(2)ストック

 「ストック」は、「臨時の必要資金」。
 「ストック」としては、たとえば、「耐久資金」や「設備投資」が、有り得ます。
 「耐久資金」は、「事故などによって、一時的に、その企業の収入が『大幅に減少した』または『途絶えた』ときに、しばらく、雇用を維持して、耐久するための資金」。
 「設備投資」は、「機械設備の新調、オフィスの移転など、ハードの更なる充実を図るための資金」。「設備投資」は、たとえば、「スタッフさんたちが、更に働きやすいオフィス」にしてゆくためにも、重要です。

(3)振り分け

 経営において、価値を投資に回してゆくにあたっては、「フロー」と「ストック」、それぞれへ振り分ける割合も、大事になります。
 一般には、投資の全部を「フロー」には回さずに、一部を、積立金として、「ストック」へ回してゆくことになるでしょう。
 以前、私の知り合いである、経営者さんが、こういうことを、語っていました。「自分は、収益のほとんどを、スタッフさんたちへの給与に回した結果、耐久資金の積み立てができず、突然、売上が大幅に減少したときに、人員整理をせざるを得なくなった」。貴重な経験の、共有です。

4 生産

 本稿においては、仮に、生産体制を、「システム」と呼ぶことにします。
 「システム」は、「ソフト」(はたらき)と「ハード」(しくみ)から、成り立っているようです。「はたらき」と「しくみ」という、分け方については、養老孟司さんの考えを、個人的に、参考にしました(『手入れという思想』新潮文庫)。

(1)生産様式

 「システム」においては、「単一品種の大量生産」から、「多品種の少量生産」へと、品種・数量についての変化が、起こってきているそうです(前掲『経験から学ぶ経営学入門』)。この変化については、私の、個人的な実感からしても、同感です。
 「単一品種の大量生産」は、製品またはサービスの、「画一化」及び「標準化」によって、実現していました。
 これからの「多品種の少量生産」においては、「標準から外れた、オーダーメイドの、製品またはサービスを、いかに、どれほど、生産または提供できるか」が、問題になってくるのでしょう。
 ただ、「標準から外れた」、製品またはサービスを、生産または提供するためには、その前提として、そもそもの「標準製品」「標準サービス」について、生産または提供することができる、基礎能力が、必要となってくるでしょう。
 また、生産または提供において、「画一化」及び「標準化」することができる工程に関しては、きちんと「画一化」及び「標準化」してゆくことも、「要領のいい、気持ちのいい」仕事のためには、必要でしょう。企業にとっても、顧客にとっても…

(2)働きがい・生きがい

 製品を生産すること、サービスを提供することは、そのことに従事するスタッフさんたちにとっては、「価値を生む」ことであると同時に、「経験」「満足」「働きがい」「生きがい」にも、つながることであるでしょう。
 ひとさまに、自分の企業において、どのように、働いて頂くか。このことについて、考える対象として、捉えるための言葉に、「人事労務管理」というものがあります。この言葉には、「ひとを使う」発想がこもっているようで、個人的には、好きではありません。「ひとを使う」ではなく、「ひとを生かす」ように、「ソフト」(はたらき)の、具体的な内容について、学んでゆきたいものです。

(3)ハード数

 「司法書士」という事業においては、「オフィス」というハードは、通常、一ヶ所で済みます。
 しかし、他の事業では、そうした「オフィス」「店舗」「工場」などのハードが、複数、必要となることが、往々にして、あるでしょう。その場合、「ハードとハードとの連携」ひいては「個々のシステムどうしでの連携」も、問題になってくるでしょう。

(4)マネジメント

 「生産」という局面において、ソフトとハードとが、上手く連携しつつ、動作してゆくよう、差配することを、「マネジメント」というのでしょう。
 「マネジメント」については、中原淳さんの『駆け出しマネジャーの成長論』中公新書ラクレが、参考になります。

(5)個人メモ

 なお、ソフト・ハードについて、個人的に、印象に残っていること、気が付いたことを、ここに書き留めておきます。
 まず、ソフトについて、本稿における、私の記述が手薄であること。私の、ソフトについての認識は、まだ十分ではないようです。「ソフト」(はたらき)は、目に見えない分、認識も、しにくいのでしょう。そのように、言い訳しておきます…笑
 また、ハードについては、私の事務所へいらした方から、こういうコメントを、頂いたことがあります。「私のオフィスで、1人で使っているスペースを、中島さんのオフィスでは、4人で使っていますね」。このコメントには、正直な話、ビックリしました。人間、自分が毎日、出勤している職場の、スペースが、広いか狭いかについては、認識が甘くなるようです。
 この話に関連して、私の事務所のスタッフさんたちからは、以前、「席を固定するのではなく、席を自由に移動して、働きたい」という旨の、希望がありました。
 スタッフさんたちに、のびのびと働いて頂くためには、私の事務所は、ハードの面においても、改善するべき点が、まだまだたくさんあるようです。

 個人メモの最後に、私が事務所において利用している、「チャットワーク」という、案件管理のためのアプリケーションを、「ソフト」と「ハード」の、どちらに分類するべきか、個人的に迷ったことも、付け加えておきます。

5 意思決定

・ どのように、価値を生み出すか。
・ 生み出した価値を、どのように、投資に回してゆくか。
・ 投資をもとに、どのような生産によって、価値を生み出してゆくか。

 これらの「判断するべき事項」について、意思を決定してゆく方法には、「パートナーシップ」と、「リーダーリップ」とが、有り得るでしょう。
 「パートナーシップ」とは、「経営者と従業員とが、協議して、決定する」方法。
 「リーダーシップ」とは、「経営者が、自らの判断で、決定する」方法。
 「パートナーシップ」の方が、スタッフさんたちも、「自分も関与して決めた」ことになり、仕事への意欲を持ちやすくなったり、結果への納得を得やすくなったり、するのではないでしょうか。
 ただ、「パートナーシップ」を、意思決定方法として、主に採用することになったとき、「リーダーシップ」は、どのような場面で、採用するべきことになるのでしょうか。
 この問題は、このように、言い換えることができます。「リーダーが、その権力を行使するべき場面は、どのような場面か」。「リーダーが、その判断について、単独で責任を負うべき場面は、どのような場面か」。

6 プリズムとプリズムとの関係

 いままで、「経営」という「プリズム」に、「価値」「投資」「生産」という光を当てて、その輝きの意味するところを、検討してきました。
 ただ、この検討は、「自社」という「個別の企業」の「経営」についての検討に、とどまっています。
 そこから、視野を広げると、「自社」という「プリズム」の他に、「顧客」という「プリズム」や、「他の企業」という「プリズム」があることも、見えてきます。そうした「プリズム」どうしの関係について、検討することも、必要でしょう。検討課題は、具体的には、下記の通りです。

  自社と顧客との関係(マーケティング)
  自社と他の企業との関係(連携・ビジネスシステム)

 そして、社会における、「プリズム」と「プリズム」との照応、その輝きの総和が、「経済」というものなのでしょう。

7 貨幣・価値・生命

 最後に、本稿において、「価値」というものについて、個人的に考えてきた結果、気が付いたことを、書き留めておきます。
 個々の企業は、その経営において、「価値」を生み出し続けて、その「価値」は、内部への投資に向かったり、外部への投資に向かったりして、「価値」の流れ、その循環を形成しています。
 この「価値」は、通常は、「貨幣」が表象することになっています。「価値」は、私たちの目には、見えませんけれども、「貨幣」は、見えます。
 「貨幣」の奥に、「価値」がある。そして、「価値」の奥には、「生命」があるでしょう。

  表層 貨幣の循環(「会計」が認識する現象)
  中層 価値の循環
  深層 生命の循環

 「貨幣」が「価値」と、つねに一致するとは、限りません。同じように、「価値」も、「生命」とは、つねには一致しないでしょう。
 「貨幣」「価値」「生命」が、一致する循環。それが、「よき循環」なのでしょう。そして、そのような「よき循環」とは、「ひとを生かすことによって、価値を生み、貨幣を得ること」が、連鎖してゆくことなのでしょう。
 もっといえば、「生命」には、「ひと」のみならず、「動物」ひいては「生物」、それらすべてが形成する「生態系」をも、含むものとすることが、できるでしょう。

 以前、投資家の村上世彰さんが、マスコミからの追及を受けて、「お金儲けは、悪いことですか?」と、マスコミへ、逆に問いかけたことがありました。そのとき、村上さんが直面していた問いかけは、本質としては、次のようなものだったのでしょう。
「貴方がお金(貨幣)を儲けている仕事、その仕事が生み出している、価値は?」
「その仕事が育んでいる、生命は?」

 「貨幣」「価値」「生命」が、一致する循環。そうした循環を生み出すよう、私も心がけてゆきたいものです。

 以上、これで、経営について、考えてゆくための、その基礎ができました。

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