高杉一郎「私と児童文学」『あたたかい人』みすず書房 2009.10.21
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『トムは真夜中の庭で』の訳者、高杉一郎さん。1908-2008。
高杉さんが、児童文学の翻訳に携わるようになった、そのきっかけのことを、書き残していました。
1 内容要約
高杉さんは、もともとは、出版社の編集者だった。大学では、英文学を学んだ。
戦時中、シベリアへ応召。戦後、抑留。
極寒の凍土。過酷な労働。次々と斃れてゆく仲間たち。いずれは、自分も…
ある日、高杉さんは、作業監督から、絵本を借りる。これなら、文が読めなくても、絵で読める。
主人公は、女の子。収容所の、暗い電燈の下で、読み進めてゆくうちに、その女の子の姿が、故郷に遺してきた娘たちの姿に重なって、高杉さんは、「ぼろぼろと涙を流した」。
4年にわたる抑留の後、高杉さんは、釈放。帰国。
妻子は、高杉さんのことを、ずっと待ってくれていた。
帰国後、高杉さんは、収容所で読んだ絵本を、訳した。それが、高杉さんの、児童文学についての訳業の、はじまりだった。
2 中島コメント
高杉さんが児童文学を訳しはじめたきっかけは、お子さんたちへの愛情から、だったのですね。
思えば、『トムは真夜中の庭で』の訳文は、自分の生命の有り難さを、かみしめながら書いているかのように、丹念でした。
高杉さんの訳した『トムは真夜中の庭で』(初版・1967年)は、いまも版を重ねています。その理由が、分かったような気がします。
いいひとを、知ることができました。高杉さんは、岩波少年文庫で、他にも、ギリシア神話を、訳したりしているようです。面白そう。高杉さん、これから、よろしくお願いします🤗