私の事務所においての、教育訓練制度に関して、試案をまとめてみました。主に、「資格の取得の支援」(OFF-JT)についてのものです。
これまで、司法書士試験に関しての資格取得支援、その一辺倒でした状況について、FP3級・簿記3級から始めての、段階を設けてみました。各段階は、その試験の難易度に応じて、階段のように、積み重なっています。
これらの資格について、その取得のための、教材費、受験料等を、支援してゆく。また、勉強のための時間を、柔軟に確保してゆく。そのようなことができればと、私は、考えています。
1 基本発想1――仕事と試験勉強との両立
この教育訓練制度の発想は、「司法書士試験が、仕事しながら受験するには、難易度が高すぎる」ことが、その基本となっています。
受験勉強に集中すると、仕事に差し支える。仕事に集中すると、受験勉強に差し支える。そのように、受験勉強と仕事とが、相互に時間と労力を奪い合うなか、若者が、毎年、司法書士試験を受験して、不合格になる。つまり、毎年、司法書士試験から、有為の若者が、「お前は不合格だ」との通知を、受け続けることになる。そして、その若者が、自信を失くしてゆく。
そのような状況を、私は、司法書士業界において、仕事を始めてから、15年以上にわり、目にし続けてきました。そして、「そのような状況を、改善するために、このような教育訓練制度があってもいいのではないか」と、考えるようになりました。
FP3級。簿記3級。合格率の高い、各試験から、受験勉強を始める。そして、ひとつひとつ、合格する体験を重ねてゆく。その中で、「どのくらいの難易度の試験であれば、自分は、仕事と勉強とを両立できるのか」について、見極める。見極めたときには、自分の努力の結果としての資格が、ある程度、取得できている。つまり、努力の結果が、形に残る。形として残った結果は、そのひとにとって、自信にも、つながるはずです。
ちなみに、FPや簿記の試験は、実施の回数も、年2回、または、年3回ですので、その分、合格がしやすいです。
また、宅地建物取引士まで取得することができれば、それからは、独立開業も、しやすくなってきます。
2 基本発想2――成年後見人という生活密着型自営業
このように、新しい教育訓練制度へ、私が、FPや簿記を組み入れることにした、きっかけ。そのきっかけとなった業務は、成年後見業務でした。成年後見業務には、簿記やFPの知識が、密接に関わってくるのです。
(1)簿記――家庭裁判所への定期報告(財産目録・収支予定表)
成年後見業務においては、1年間を単位として、後見人が、後見している相手、そのひとの収支について記帳し、財産目録を作成し、収支予定を立てて、家庭裁判所へ報告する事務が生じます。
「普段から、そのひとの生計について、記帳しておく。そして、その記帳をもとに、年1回、財産目録・収支予定表を作成する」。このような事務は、個人事業主や、法人においても、必要となる事務です。そして、その事務のために重要な知識として、簿記の知識があります。
このように、成年後見業務における事務に関しては、簿記の知識が、転用可能であり、役に立つのです。
(2)FP――生計の組み立て
上に述べましたように、成年後見業務は、ひとの生計を組み立てることについて、全面的に関わる業務です。ですので、その組み立てにあたって、ファイナンシャル・プランナーの知識が、役に立つことになります。
ファイナンシャル・プランナーの、その知識の体系について、図表を挙げておきます。
※ 出典 金融財政事情研究会「2級FP技能士・学科受検対策講座」 ちなみに、この通信講座を修了したひとは、FP3級の受験を省略して、FP2級から受験を始めることができます。この通信講座で出てくる課題の答えは、この通信講座のテキストに、書いてあります。とっつきやすい通信講座です。
https://store.kinzai.jp/public/item/edu/C/512/
これらの知識は、成年後見業務において、関係各所から届く関連資料について、内容を確認し、分類して整理するためにも、役に立ちます。そして、その内容確認、分類整理が、記帳することや、財産目録・収支予定表を作成することに、つながってゆきます。
(3)成年後見人――生活密着型自営業
このように、成年後見業務は、後見している相手、そのひとの生活に密着する業務です。
このことに関連して、先に、私は、働き方の、ひとつの類型として、「地域密着型自営業」というものがあると、書いたことがあります。(テキスト批評『フリーランスの労働法政策』)
「地域密着型自営業」から、更に進んで、成年後見人は、「生活密着型自営業」であるということができるでしょう。
そして、そのひとの生活に密着するということは、そのひとが、自分の生計を、ひいては、自分の老後を、見せてくれるということにも、つながります。
そのことは、成年後見業務に従事するひとにとって、自分の生計を組み立ててゆくための、参考にもなるでしょう。
――若い頃、一所懸命に働いたことで、年金がたくさん出ているひと。
――自営業として自由に働いてきた反面、年金があまり出なくて、苦労しているひと。
――家産はあるものの、収支が赤字で、家産を手放さなければならなくなったひと。
――and more…
ひとびとの生計は、本当に様々です。様々な生計の事例を、成年後見業務においては、見ることができます。
「自分の生計を、堅実に組み立ててゆきたい」。この願望は、「仕事で活躍したい」などという願望以前の、ひとびとにとっての、基本的な願望の、ひとつであるはずです。
その願望のためにも、成年後見業務に従事することや、その業務と並行して、簿記やFPの知識を習得してゆくことは、役に立つはずです。
3 資格についての付記
(1)その他の資格――税理士・社会保険労務士・社会福祉士・精神保健福祉士
この教育訓練制度に組み込んだ資格以外にも、この社会には、仕事と人生の役に立つ資格が、様々あります。
たとえば、FPの知識は、税理士・社会保険労務士とも、試験の範囲が重なるので、それらの試験へ、学習を発展してゆくための、その基礎にもなります。
また、福祉系専門職としての資格には、「社会福祉士」や「精神保健福祉士」があります。
私が、福祉に関するお仕事をしている方々との勉強会に参加したとき、その方々が口々におっしゃっていたことを、ここに書き留めておきます。
「社会福祉士の資格が欲しい」
「その資格があるのとないのとでは、就職のしやすさが、全く違う」
たしかに、私が、成年後見人として、病院・社会福祉協議会・地域包括支援センター等へ訪問したときにも、そのケースワーカーさんたち・ソーシャルワーカーさんたちの名刺には、「社会福祉士」という肩書が、よくのっていました。
ただ、社会福祉士の資格を取得するためには、一定の期間にわたる実習が、必要になるようです。その実習期間が、私自身は、現状、確保できそうにありません。そのため、私にとっては、社会福祉士等が、視野から外れがちになり、そのため、今回の教育訓練制度・試案に、それらを組み込まないことになりました。
しかし、もしも、私の事務所のスタッフさんが、社会福祉士等を取得したいと考えたときには、私は、実習期間の確保も含めて、支援するつもりでいます。
(2)資格――労働市場におけるパスポート
資格は、社会福祉士の例にもありましたように、いわば「労働市場におけるパスポート」にもなります。
本来、一緒に働いてみないと、そのひとの能力は、分かりません。
しかし、資格があると、「このひとは、この合格年度において、このくらいの知識は、有していた」ということについて、ある程度、証明ができるようになります。その証明が、就職にあたっての、一応の目安となるのです。
いまの時代、ひとつの企業に、永年、勤続できるとは、限りません。私の事務所も、私としては、ずっと継続するつもりでいますけれども、この時勢において、この先、どうなってゆくかについては、油断することができません。万一、私が倒れて、スタッフさんたちが転職せざるを得なくなったときにも、この教育訓練制度によって取得した資格は、役に立つはずです。そして、そのことが、めぐりめぐって、スタッフさんたちに、私の事務所で安心して働いてもらうことに、つながってゆけば、幸いです。「中島が、どうにかなっても、自分は、何とかなる」。
4 たたき台――自分の仕事と人生のために
この教育訓練制度は、あくまでも、試案です。
私としては、この教育訓練制度に、スタッフさんたちからの希望があれば、先に述べました社会福祉士等のように、他の資格や講座も、組み込んでゆくつもりでいます。
本来、自分の仕事と人生は、自分で組み立てた方が、満足しやすくなるはずです。
――自分は、こういう仕事と人生を歩んできた。
――そして、自分は、これからは、こういう仕事と人生を、歩んでゆきたい。
そのような話が、スタッフさんたちから出てくることが、私にとっては、いちばんうれしいです。
そのような話について、考えるための、たたき台として、この教育訓練制度・試案が役に立てば、何よりです。
付記。上に述べました考えからしますと、そもそものキャリアデザインの方法についても、スタッフさんたちにとって、参考になる、何かしらのものがあった方がいいのかもしれません。その方法に関する好著としては、たとえば、リクルートワークス研究所の所長でした、大久保幸夫さんの『キャリアデザイン入門』(日経文庫)があります。
追記。ちなみに、立教大学による、在校生・卒業生に向けての、「立教キャリアアップセミナー」というサービスがあります。このサービスにおいては、FPや簿記、宅地建物取引士についての、受験対策講座を、提供しています。
https://www.rikkyo.ac.jp/campuslife/support/certification/others.html
※ 次回予告。「考えの足あと/基幹業務としての成年後見」。長くなるので、2回に分けて、投稿することにしました。