【考えの足あと】大江健三郎さん逝去

NHK ノーベル文学賞 大江健三郎さん 死去 88歳
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230313/k10014006861000.html

――たとえ、実るあてがなくても、生きるための努力は、続けてゆくべきこと。

 そのことについて、私は、学生時代、大江さんの『ヒロシマ・ノート』(岩波新書)・『個人的な体験』(新潮文庫)から、教えを受けてきました。

 『個人的な体験』は、頭脳に障害がある状態で生まれてきた息子のことを、受け容れてゆく、父親の物語でもありました。

 その後、60代になってから、大江さんは、音楽家・小澤征爾さんとの対談のなかで、次の趣旨のことを語っています(『同じ年に生まれて』中公文庫)。

――私は、子どもができたときに、私が先人から受け継ぎ、また、自ら培ってきた「言葉」を、息子に伝えようと、夢見ていました。
――その夢が叶わないことが分かって、私は、一度、絶望しました。
――しかし、息子は、かえって、私に、「人間は、『言葉』のみならず、『音楽』によっても、つながりあうことができるのだ」ということを、教えてくれたのです。

 大江さんは、『個人的な体験』の、その先で、新たな境地へ到達していたようです。
 私もまた、これからも、大江さんの著作を読み進めて、その境地から、教えを受けてゆきたいです。

 戦前日本の軍人たちの目指した父親像が、「否認する父親」であったとすれば、戦後日本の作家たちが目指した父親像は、「受容する父親」。大江さんは、その典型であるようなひとでした。

 ご冥福を、祈ります。

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