【見聞】安藤忠雄『表参道ヒルズ』
表参道ヒルズ フロアマップ
https://www.omotesandohills.com/floor_map/
表参道ヒルズ。設計者は、建築家・安藤忠雄さん。見物してきました。ぼうけん、たんけん♪
1 外観――透き通った建物
建物の外壁は、ガラス張り。大きな建物なのに、透明感がありました。
そのガラス戸の奥に、路面店が、引っ込んでいました。そのため、メイン・エントランスの正面から、左右を見渡しても、各店舗が目立たず、ガラス戸が並んでいるように見えました。そのガラス戸の並ぶ様子が、きれいでした。
この建物の建築にあたって、安藤さんは、その著書において、「街並みに溶けこむように造った」旨を、述べています(『建築家 安藤忠雄』新潮社)。そのとおりの造りであることが、実感できました。
2 内部
(1)天井――外光の採取
天井には、くもりガラスが層をなしていて、陽の光を、淡く、採り入れていました。その光によって、内部は、ほの白く、うす暗く、各店舗からの黄金色の明かりと相まって、幻想的な雰囲気を醸し出していました。
このような、外光の採取について、安藤さんは、次のように語っています(前掲書)。
「子どもの頃、住んでいた長屋を改築した際に、大工さんが天井を外したら、陽の光が射してきた。その美しさが、いまも忘れられない」
安藤さんは、子どもの頃に受けた感動を、そのまま大事にしながら、建物を設計しているひとであるようです。このような、安藤さんのありようから、私は、作家・吉本ばななさんの言葉を、あらためて、思い出しました(『おとなになるってどんなこと?』ちくまプリマー新書)。
「大人になるということは、子どもの自分をちゃんと抱えながら、大人を生きるということです」
(2)らせん回廊――「階層」という概念がほどける
建物のかたちは、台形。高さが低く、底辺に接する2角が、鋭い。
その台形の内周について、なぞるように、回廊が、らせんを描くように、造りこんでありました。回廊は、建物の正面の坂道と、同じ勾配。その回廊を、3階から、各店舗について、ウインドウ・ショッピングしながら、降りてゆくと、地下3階の広場まで、たどりつきます。
回廊が、坂道になっていること。そのことによって、ひとびとは、「いま、自分が何階にいるのか」が、分からなくなります。「階層」という概念が、ほどけます。地下の回廊をめぐる、お嬢さんたちが、はしゃいだ声で、「ヤバい、どうやって地上に出るの?」。さながら、『不思議の国のアリス』でした。
私の身体の感覚が、ふだん、いかに「平面」の「階層」に慣れているのか。その「慣れ」について、私は、このらせん回廊を、歩くことを通して、あらためて実感しました。この「慣れ」については、私にとって、コロナ下において、スマートフォンやパーソナルコンピューターの画面を眺める時間が増えたことで、より拍車がかかったのかもしれません。
ふだんからの、自分たちの「慣れ」を、いったん、ほどく。のみならず、新しい秩序のある空間を、構築する。このような、安藤さんの想像力と実行力を、私も見習いたいです。
3 街並みへの配慮
「街並み」の観点からみれば、この「表参道ヒルズ」という「商業施設」は、もともとあった「同潤会アパート」という「住戸」を、建て替えてできたものです。なお、その「同潤会アパート」について、一部、復元した建物も、この「表参道ヒルズ」の東側に、くっついています。その簡素さに、好感。
都心の建物が、商業施設や公共施設に変わって、住戸は、郊外へ移ってゆく。そのような、「ドーナツ化」現象を、表参道ヒルズに、私は、あらためて見て取りました。
その表参道ヒルズにも、住戸は、残ってはいます。その住戸は、商業施設の上に、設けてあります。そして、住戸も含めての、表参道ヒルズの高さは、建物の正面の、けやきの並木に対して、あまりにも高くならないように、配慮してあります(前掲書)。
あくまでも、街並みに配慮しながら、建物を設計する、安藤さん。安藤さんは、自分について、「大阪の、町工場の集まる地域に育った、悪ガキである」旨を、述べています(前掲書)。しかし、この表参道ヒルズから、私は、安藤さんは、品が良いひとのように、感じます。
低層は、商業施設に・公共施設に。その上は、超高層タワーマンションに。このように、高さに関して、「街並み」という観点を、度外視したような、設計は、どのようなひとたちが、どのような意図で、発想したのでしょう。
4 まとめ
きれい。ふしぎ。それらについて、カラダで楽しむことはもちろん、私にとっては、「街並み」への溶けこみかたについて、「空間」のつくりかたについて、示唆を受けることもができました。
素敵な「いたずら」のしかけてある、安藤さんならではの建物でした。
安藤さんの設計した、他の建物も、見物してみたくなりました。