【考えの足あと】専業主婦の財産制度

参考文献
大村敦志『新基本民法7 家族編』有斐閣 2014.12
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641136946
大村敦志『新基本民法8 相続編』有斐閣 2017.4
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641137639

 家族法・相続法についての教科書。著者の大村敦志先生は、今般の相続法改正にあたり、法制審議会において部会長を務めたひと。
 ざっと読んでみて、個人的な印象としては、「基本」というよりも「本質」。簡潔な文章のなかに、鋭い指摘がたくさん。ざっと読み通すこともできるし、立ち止まりつつ、じっくり考えながら読むこともできる、不思議な一冊でした。またじっくり読んでみたいです。

 特に印象に残った「夫婦財産制度」について、「専業主婦の財産制度」というテーマで、私個人の問題意識も交えながら、問題状況を、書き留めておきます。

 日本における夫婦財産制度は、妻を、特に子育てしている女性を、専業主婦として、家庭に閉じ込めやすいように、できあがっているようです。
 現代の社会状況が、その傾向を助長しています。
 こうした制度や状況ですと、結婚すること、子どもを持つことを、女性がためらうのも、無理はないのではないかと、個人的に感じます。

 なお、私が問題視していることは、「専業主婦という生き方について、その活動の自由を保障する制度が整っていないこと」です。専業主婦という生き方を否定するつもりは、ありません。また、「その生き方を肯定します」とまで言えるほど、偉い人間でも、ありません。

1 夫婦財産制度(正社員×専業主婦)

 正社員×専業主婦である夫婦の場合、その財産関係は、次のようになります。

①A 夫婦それぞれが結婚前から有していた個人財産は、そのまま個人財産であり続ける。

①B 夫婦それぞれが結婚後に個人で取得した財産は、そのまま個人財産であり続ける。

 ①B 例)自分の親から相続した財産

②A 結婚後に夫が働いて得た給与賃金は、夫の名義になる。

②B 結婚後に妻が従事する家事労働は、無償となる。

②C 離婚時の財産分与にあたってはじめて、妻は、夫が結婚後に働いて得た給与賃金について、原則2分の1の価額を、受け取ることができる。

 ※ ②Cの趣旨。夫が結婚後に働いて得た給与賃金(②A)は、妻の無償家事労働(②B)があってはじめて得ることができた財産である。従って、夫の名義ではあっても、実質は夫婦の共有財産であったものとして扱う。

③ 夫が妻よりも先に死亡した場合、妻は、夫の①ABと②Aとを合算した金額(つまり遺産総額)から、原則2分の1以上の価額を、受け取ることができる。

③補足 妻が夫よりも先に死亡した場合には、妻は、②Cに当たる財産も、③に当たる財産も、何も得ることができない。妻の家事労働については、生涯無償、ということになる。

2 問題状況

 上記1の各項目から考えて、専業主婦は、その活動について、下記の制約を受けることになっているようです。

・ 自分の自由に使えるお金が増えていかない(②A・②B)

・ 離婚が成立して、財産分与が成立するまで、自分の家事労働に対する報酬を受けることができない(②C)

 ※ それまでの生活資金を、どのように工面するのか、ということも、問題になるでしょう。

・ 結婚生活を維持した場合、夫が死亡するほど高年齢化するまで、自分の労働に対する報酬を受けることができない(③)

・ 自分が夫よりも先に死亡した場合には、最後まで、自分の労働に対する報酬を受けることができない(③補足)

 個人的に、更に下記2点を補足します。

・ 子育てしながらの勤務継続の難しさ ⇒ 専業主婦になる方向へ

・ 子育てしながらの再就職の難しさ ⇒ 専業主婦になる方向へ

3 夫婦共有財産制度

 1970年代、民法改正提案において、夫婦共有財産制度の導入が、話題に上ったことがあったそうです。
 「様々な立法的な手当てが必要となるため、この方針は断念された」。
 どのような制度だったのでしょうか。現行制度のなかでも、同様の財産関係を、個別の夫婦の間での合意によって、築くことはできないでしょうか。個人的に興味深い問題です。

 以上、「専業主婦の財産制度」をテーマとした、覚え書きでした。

 ※ なお、また別な問題として、これら2冊においては、「扶養制度」について、その内容、そして家族法の体系のなかでの位置づけの不明確さに関しても、指摘がありました。
 この指摘に関連して、個人的に、いままで、成年後見業務において、扶養制度と成年後見制度との関係について、悩ましい問題の出てくることが、ままありましたので、今回の読書を通じて、扶養制度について学習する必要を、あらためて感じました。

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