【読書】水野紀子『相続法の立法的課題』⑦⑧⑨ 有斐閣

水野紀子『相続法の立法的課題』有斐閣 2016.3
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641137332

7 金銭債務と金銭債権の共同相続(窪田充見)

 金銭債務について相続が起こった場合には、その債務を、法定相続分に応じて、各相続人が承継することになっている。
 法定相続分とは異なる「相続分の指定」や「遺産分割協議」に基づいた割合での、債務の承継が、債権者に対しても有効となるためには、その承継割合についての、債権者による同意が必要であるとするべきである。この法律構成は、判例(H21.3.24)にも沿うものである。

 金銭債権は、相続人の準共有となり、全員の同意がないと、行使できないこととするべきである。

 なお、債権の相続についての基礎理論は、不法行為の被害者(死亡)からの加害者に対する損害賠償請求権を、どの相続人が、どれくらいの割合で、どのような方法で請求できるのか、ということについても、関係してくる。その法律構成が「相続」によっているからである。

 遺産承継の流れについては、「一定期間は、相続人による遺産分割がないかぎり、遺産を処分できないこととし、同期間の経過後は、各相続人へ、一定の基準で、遺産に関する権利が移転したこととする」という制度が導入できないだろうか。

〔中島コメント〕

 こちらの論稿、預金債権の相続に関する最高裁大法廷決定(H28.12.19)よりも前に、その決定と同様の基礎理論を示しています。実務を牽引した論稿なのかもしれません。

 金銭債務の相続について、法定相続分と異なる承継割合の定めに関して、債権者の同意を必要とする法律構成も、今般の相続法の改正において、条文としての導入がありました。

8 包括遺贈と相続分指定─立法的課題を含む(潮見佳男)

 包括遺贈は、もともとの立法時には、「相続人ではない相手」に対する遺贈方法だった。それが、その後の実務の形成のなかで、相続人に対しても、できることとなった。その結果、「包括遺贈」と「相続分の指定」との制度間競合が生じた。
 同じ目的で、対象が違う制度だったのに、対象を混同したので、どちらを利用するかによって、効果に違いが生じることとなった。代襲、相続放棄、登記、遺留分。この違いは不合理なので、基本方向としては、包括遺贈へ制度を統一するべきである。
 相続分の指定は、全相続人を対象とするときのみ、有用。その場面でのみ、利用できる制度として、残すべきである。

〔中島コメント〕

 包括遺贈は、もともとの立法時には、「相続人ではない相手」に対する遺贈方法だった。
⇒ 正直なところ、はじめて知りました。

 同じ目的で、対象が違う制度だったのに、対象を混同したので、どちらを利用するかによって、効果に違いが生じることとなった。
⇒ 同じ目的の制度なら、対象が違っても、効果の違いは、生じないのではないでしょうか。果たして、「包括遺贈」と「相続分の指定」は、同じ目的の制度なのでしょうか。この疑問に関連して、「相続分の指定」が、どういう目的で存在している制度なのか、いっそう興味が湧いてきました。本書の第1論文(水野紀子先生)によると、「相続分の指定という制度の導入は、思い付きだった」そうです。

9 受遺者の処分権行使の制限─負担付遺贈の一考察(石綿はる美)

 受遺者の処分権の制限については、そのことを可能とする制度が、古くはローマ法に存在していた(「信託遺贈」)。こうした制度は、フランス法においても、「継伝処分」という制度として、続いてきている。制度の基本理念としては、「『財産の流通』(受遺者・受贈者)と『処分の自由』(処分者)との調整」がある。
 「継伝処分」とは、遺贈または贈与にあたり、「一時的」であって「重大かつ正当な利益がある」場合には、対象となる不動産に用益権を設定できる、とする制度である。なお、継伝義務者が「処分者の子」「子がいない場合には兄弟姉妹」であり、継伝権利者が「継伝義務者のすべての子」であることが必要である。
 「一時的」とは、「処分者の終身」を指す。「永久」は、不可。
 「重大かつ正当な利益がある」とは、「受益者の保護」を指す。たとえば、浪費者を保護するために、用益権しか与えない、という利用方法がありうる。また、処分者も、自ら受益者となることができる。この場合、処分者が用益権者となり、受遺者・受贈者が虚有権(所有権マイナス用益権)者となる。
 なお、「継伝処分」により設定のあった用益権は、譲渡することができる。

 その後、フランスにおいて、「継伝処分」が「段階的恵与」に発展した。「恵与」とは、「遺贈または贈与」のこと。「段階的恵与」においては、受益者として、誰でもを指定できることになった。こうした発展を主導した理念は、「処分者の意思の尊重」「相続・恵与法の契約化」。

 日本法においては、受遺者の処分権の制限について、そもそも議論が少ない。
 判例においては、贈与・売買に伴う、当事者間での譲渡禁止特約について、「禁止期間が譲受人の終身にとどまるなら有効」とするものがある。
 そして、遺贈に関しては、遺言者が受贈者に対して「その死後の財産の移転義務」(次は〇〇に遺贈しなさい)を課すことについて、肯定する学説がある。
 ただ、二次的受贈者の指定にあたっては、同時存在の原則による限定(例:遺言の効力発生時に懐胎していない者については指定できない)を設けることも、検討するべきである。

〔中島コメント〕

 この論稿が紹介している、遺言による用益権の設定。今般の相続法の改正で導入があった、「配偶者居住権」にも、通じる話ですね。
 日本法における配偶者居住権は、譲渡ができない。フランス法における「継伝処分」による用益権は、譲渡ができる。こうした違いが生じていること、興味ぶかいです。

 また、「受遺者連続型遺贈」「受益者連続型信託」「配偶者居住権」は、同じ目的のもとで、競合することがありうるのではないでしょうか。たとえば、子がいない夫婦において、「配偶者の生活の保護」(建物に当分は配偶者が暮らす)と「自分の血族への財産の承継」(配偶者の死後は自分の兄弟姉妹へ財産がゆくようにする)との調整を図るために、いずれの制度も、利用できそうです。どの制度を利用したら、どうなるのか。比較することも、面白そうです。

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