【読書】木本喜美子ほか「既婚女性のキャリア」 ~流れを変える――既婚女性の働き方をスタンダードに~

木本喜美子ほか「既婚女性のキャリア」季刊家計経済研究 第89号 2011.1
http://kakeiken.jp/old_kakeiken/jp/journal/jjrhe/backnumber80.html#n89

 『山椒魚』や『顔をなくした女』に関してのテキスト批評によって、自分の歩みについての振り返りが、ある程度、できました。
 あらためて、これからの自分の歩みについて、「組織」や「事業」の組み立てを、進めることにします。

 経営者・小倉昌男さんは、宅急便の創業にあたり、まずは「ひとの動き」について、構想したそうです(『経営学』日経BP社)。
 そこで、まずは、私も、「ひとの動き」や「組織づくり」について、考えてみることにします。

 社会学者・木本喜美子さん、ジャーナリスト・福沢恵子さんによる、対談。
 対談の時期は、2010年11月。

第1 内容要約

1 M字カーブ――女性の変質

 女性の就業率についての統計が示す、「M字カーブ」。女性が、結婚・出産を機会として離職し、子育てが一段落してから復職する、構図。
 このM字カーブについて、男女雇用機会均等法の施行後も、見た目には、変化はない。
 ただ、離職する女性の質は、変化している。
 以前は、「仕事に未練を残さずに、離職してゆく女性」が多かった。そもそも、企業が、女性に対して、やりがいのある仕事を与えてこなかったためである。
 いまは、「仕事に未練を残しつつ、離職してゆく女性」が多い。女性が、正規雇用フルタイムの働き方で、やりがいのある仕事に携わっていたにもかかわらず、結婚して子どもができて、その働き方を続けることができなくなるためである。

2 夫の選び方

 上に述べた状況のもとでは、女性にとって、どのような夫を選ぶかが、重要になる。

A 正規雇用フルタイム夫
B 自営業夫
C 主夫

 妻が、正規雇用フルタイムの働き方で、家計を支え、夫が、自営業や主夫の働き方で、家事・育児に携わる組み合わせも、これからの時代には、十分ありえる。たとえば、夫が鍼灸師の資格を取って、自宅で開業した例がある。

3 企業の選び方

 企業によっては、3年間、育休を取得できることもある。その場合、1回の育休で、二人、産むことができる。

 育休中、上司が、休業している女性と、連絡を密に取り合い、その企業の現状について、情報を共有しておくことが、大事。

 また、企業によっては、復職のために役に立つ研修制度を、整備していることもある。

4 復職にあたっての障害

 女性が、子育てのために、長期間、休業していると、自己有用感を失うことがある。「自分は、社会にとって、不要な人間なのだ」。

 また、子育てが一段落して復職してくる年代のひとびとに対して、企業は、管理職としての能力――マネジメント能力を期待することが、ままある。ここにミスマッチが起こる。

 復職する女性の側も、企業に対して、やりがいのある仕事を求め、復職直後の仕事が、そのような仕事でないことに、幻滅することが、ままある。ここにもミスマッチが起きている。
 かといって、離職前の正規雇用のような、やりがいのある仕事をしようとしても、長時間労働や泊りがけの出張は難しいので、どうしても非正規雇用に行き着きがちになる。

 ただ、労働市場は、有能な人材を求めている。有能な人材であれば、キャリアブレイクの有無は、問題にならない。そのひとが市場で通用する人材かどうかが、大事。

5 若年層の流動性

 20代、若年層には、企業一社での継続就業にこだわらず、離職してゆく「流動性」がある。複数の企業へ流動してゆく、そのような働き方も、適職を探すためには、あっていい。
 ただ、流動してゆくままでは、晩婚化・未婚化、非正規化、高齢シングル女性化という流れにのってゆくことになる可能性もある。

 なお、非正規雇用という働き方について、全面的にネガティブに捉える必要はない。
 たとえば、自由業・自営業という選択肢は、あっていい。それらの働き方は、既婚女性の再就職にあたっての障害となる、「時間」と「場所」について、融通がきく。

 また、企業という営利組織ではなく、NPO等という非営利組織での仕事に従事してもいい。それらの仕事を通して、社会との接点ができるし、いろいろな経験を積むこともできる。

6 正社員夫×専業主婦モデル――現実との乖離

 日本では、正社員夫から専業主婦への所得移転がないことが、問題。
 専業主婦である妻が、家事育児に専念しているからこそ、夫は仕事に専念できる。そのような観点からすれば、夫の所得から、妻の所得への移転が、あっていい。
 たとえば、家計の成立に専心するため、あえて働かずに「主婦業」に専念してきた女性もいる。
 ただ、現状、正社員夫ひとりの所得では、家計が成立しにくい。夫婦が、共働きせざるを得ない。この現状では、乳幼児期を含め、長い育児期間を、乗り切ることができない。その上、特に、大都市圏では、近隣に両親や親戚もおらず、夫婦が孤立しがち。

7 高学歴女性の活躍

 スーパーマーケットにおける、パートタイマー店長制度。この制度は、そもそも、パートタイマーの更なる活躍のために、できた制度だった。この制度を、実際には、正社員だった女性が、復職してゆくためのステップとして、利用している。

 日本では、高学歴の女性を、活用することが、できていない。
 高学歴の女性は、高学歴の男性と、結婚しがち。高学歴の男性は、一人の所得で、家計を成立させやすい。そのため、高学歴の女性が、専業主婦になってゆきがち。

8 母子家庭

 母子家庭の母親は、非正規雇用ダブルワーク等、非常に苦労している。
 母子家庭の支援のためには、現金給付のみならず、職業訓練も、重要。手に職を付ける。コミュニケーション能力を、身に付ける。

9 「継続就業」の意味

 「継続就業」は「正規雇用で勤め上げること」ではない。
 たとえば、次のような「断続」での「継続就業」があっていい。結婚前・出産前は、フルタイムでバリバリと働く。残業や出張もする。出産後、子どもが幼稚園に入学するまでは、自宅でフリーランスの仕事をする。子どもが大きくなった後に、仕事に本格復帰する。

10 女性が主婦化する前の働き方――織物業

 女性は、高度成長期に、主婦化していった。
 その前、女性は、結婚・出産しても、働いていた。
 たとえば、地方都市の、織物業。手に職を付けた女性は、より自宅に近い企業や、より待遇の良い企業を求め、7回も8回も転職していた。
 彼女らが働き続けていた動機、それは「年金」だった。老後の、生活保障。年金が、夫よりも高い妻も、珍しくなかった。

 重要なのは、日本のホワイトカラーが、残業をずっと果てしなく続ける、この仕組みを、どう変えるか。
 正規雇用フルタイムで働く女性にとっては、未婚時には男性と同じように働くことができ、ハードな働き方ができても、その先は崖っぷち。
 そのような労働文化が、依然として続いている。

11 流れを変える――既婚女性の働き方をスタンダードに

 正規雇用フルタイムが、従来の本流だった。
 その従来の本流から外れたひとたちが、どうやって、仕事の場に戻るか。自己有用感を持ち続けるか。市場のなかで買い手がつく人間になるか。それらの問題が、存在し続けている。

 これまでの既婚女性の働き方が、今後の社会全体の働き方の、いわゆるデファクト・スタンダードになってゆくべき。
 その働き方とは、「再生産を自分で担いながら働く」働き方である。「いろいろなしがらみのなかで働く」働き方である。
 もう、「仕事だけをやればいい」働き方が、本流であるべき時代ではない。

第2 中島コメント

 私の事務所の、「組織づくり」に関して、考えるべきことの洗い出しについて、示唆のある対談でした。

 木本さん・福沢さんの意見である「既婚女性の働き方をスタンダードに」に、私も賛成します。
 これまで「製品の生産」一辺倒だった働き方について、「人口の再生産」もできるようになっていった方がいいでしょう。
 そして、そもそも、欧米では、「既婚女性の働き方(日本でいう「マミートラック」)がスタンダードである」ことを、労働政策学者・濱口桂一郎さんが、指摘しています(『働く女子の運命』文春新書)。

1 フリーランスという働き方

(1)断続就労

 本稿において言及のあった「断続での就労」は、ライフステージにおいてのみならず、1日のうちに、あってもよいでしょう。
 朝は家事、昼は仕事、夜は家事。このように1日を三分割するのではなく、1日のうちに「家事⇒仕事⇒家事⇒仕事…」等、時間を更に細分化し、適宜、割り振ってゆく。このような働き方が、あってもよいでしょう。
 家事の時間と、仕事の時間を、混ぜこぜにする。そのような働き方の方が、「子育てしながら仕事」「きちんと生活しながら仕事」というライフスタイルに、適合しやすいはずです。
 このことについて、家族心理学者・柏木惠子さんが、次のような趣旨のことを、述べています(『おとなが育つ条件』岩波新書)。
――そもそも、子育ては、子どもが急に熱を出す等、予定を崩しての、とっさの対応が必要になるものである。そのような対応ができる人間になってゆくことも、おとなになってゆくことの一環である。

 なお、このような働き方について、問題が生じるとすれば、次のようなことでしょう。
――私が『山椒魚』に関してのテキスト批評において述べたような、「応用案件の個別対応」のための、まとまった時間を、どのように確保するか。

(2)フリーランス――時間

 上に述べたような働き方には、自由業・自営業、つまりはフリーランスが、適しているようです。
 9時17時、10時16時といったように、定時を設定する働き方では、上記のような混ぜこぜの働き方は、難しいでしょう。
 また、フレックスタイム制を採用したとしても、その制度には「1か月間、これくらいの時間は、働く」という、総労働時間の設定が、合わせて必要になります。その設定した総労働時間に達するように勤務するとなると、結局、定時を設定したのと同じような働き方に落ち着くことが、ままあります。
 定時にこだわらず、総労働時間にこだわらず、働くことができる。それが、フリーランスという働き方の、いいところです。

(3)フリーランス――社会保険

 フリーランスは、時間に融通が利く反面、社会保険の適用が、正規雇用のようには、及びません。
 年金、健康保険。それらについて、フリーランスで働くひとは、自分にとって必要な保険を、自分で計算して組み立てて、用意する必要が生じます。
 年金に関連して、退職金についても、同様の問題が生じます。

 また、本稿の主題と関連して、雇用保険制度による育児休業給付も、フリーランスでは、受給が難しくなります。
 ただ、第1子と、時期を近接して、第2子を出産する場合には、継続勤務して育児休業給付を受給するか、フリーランスになって自分で稼ぐかについて、選択の余地があるかもしれません。第1子を育てながら勤務する場合、出産前よりも、勤務時間が短くなり、給与金額も小さくなりがちです。そのことが影響して、第2子が生まれた場合の育児休業給付も、第1子が生まれた場合の給付よりも、金額が小さくなりがちであるはずです。金額の小さくなる給付を当てにして、時間に制限のある勤務形態を続けるか。フリーランスになるか。所得の保障と、時間の自由とを、比べた上で、選ぶことになるでしょう。
 そもそも、第1子と第2子とは、そんなに時期を近接して、出産することが、気力体力の面で、できるものなのでしょうか。その可否については、個人差も、もちろんあるでしょう。上記の選択にあたっては、そのひと自身の実感に基づいて、選ぶことが、もちろん重要となるでしょう。

2 能力の獲得

(1)手に職を付ける

 本稿において言及のあった「手に職を付ける」こと、私も大事だと考えます。
 私の事務所においても、司法書士に限らず、司法書士に隣接する職業に関する能力について、その獲得を、支援してゆきたいです。たとえば、簿記、ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、行政書士。
 このような支援が必要であることについて、私は、以前から、『人事管理入門』についてのテキスト批評等において、繰り返し、述べてきました。そろそろ、本当に、支援の体制を、整備しないといけません。

(2)コミュニケーション能力

 コミュニケーション能力が必要であること、私も同感です。
 ただ、「コミュニケーション能力」とは、そもそも、具体的には、どのような能力なのでしょう。
 ひとつの考えるヒントになる書籍として、劇作家・平田オリザさんの『わかりあえないことから』(講談社現代新書)があります。

3 その他

(1)男性が女性を家庭に閉じ込めたがる心理――身分コンプレックス

 M字カーブについて、男女雇用機会均等法の施行の前後で、その構図に変化がないこと。女性の正規雇用が増えても、結局、その女性が退職してゆくこと。
 そのことから、私は、日本の社会において、男性が、どうしても、女性を、家庭に閉じ込めておきたがっているように、その心の動きを、見て取ります。
 まるで、作家・井伏鱒二さんの『山椒魚』において、自分もが閉じ込めを受けている山椒魚が、カエルを岩屋に閉じ込めているかのようです。

 このような、男性が女性を家庭に閉じ込めたがる心理は、どこからくるものなのでしょう。
 この構図の、原形は、戦時中、総力戦体制のもとでの、「出征する男性」「銃後を守る女性」に、あったでしょう。
 その後、戦後の高度経済成長を通じて、男性たちが「身分コンプレックス」とでも言うべきコンプレックスを、抱えるようになったことも、その一因かもしれません。

――なぜ、自分は、〇〇大学出身でないのか。
――なぜ、自分は、この業界の、一流企業の、社員でないのか。
――なぜ、自分は、管理職でないのか。
――なぜ、自分は、役員でないのか。
――なぜ、自分は、代表でないのか。
――なぜ、自分の会社は、この業界の、トップでないのか。

 このように、学歴・所属企業・肩書・地位等を、身分として捉える社会においては、上を見れば、きりがなく、どの男性も、コンプレックスを抱えがちになります。
 その男性が、家庭に目を転じると、自分が経済力でトップに立つことができるしくみになっています。そこで、その男性は、自分が一定の身分に閉じ込められている、その鬱憤を、妻を家庭に閉じ込めることで、若干、晴らした気持ちになることができます。
 もし、このような見方が、ある程度、真実であるならば、日本の男性は、井伏さんが『山椒魚』で述べていた「よくない性質」を、戦後、よりいっそう帯びてきたことになるでしょう。

 なお、「男性が、家庭において、経済力でトップに立つことができるしくみ」については、「考えの足あと/専業主婦の財産制度」において、詳述してあります。

(2)管理職としての能力――管理職ポスト不足なのに

「子育てが一段落して復職してくる年代のひとびとに対して、企業は、管理職としての能力――マネジメント能力を期待することが、ままある。ここにミスマッチが起こる」

 この記述に関連して、ほぼ同じ時期の書籍である、今野浩一郎さんの『人事管理入門』(日経文庫)には、「企業においては、管理職ポスト不足が、問題になっている」との記述があります。
 状況としては、管理職ポスト不足なのに、復職してくる女性に、管理職としての能力を求める。「年齢をも含めての固定した身分」と、「実態における必要」との齟齬を、第一印象として、私は、感じます。

(3)中途採用についての労働市場 その成否

――労働市場は、有能な人材を求めている。有能な人材であれば、キャリアブレイクの有無は、問題にならない。そのひとが市場で通用する人材かどうかが、大事。

 日本において、中途採用についての労働市場は、どの程度、成立しているのでしょう。
 そのことに関連して、リクルートワークス研究所・大久保幸夫さん(『日本の雇用』講談社現代新書)や、労働経済学者・玄田有史さん(『仕事の中の曖昧な不安』中公文庫)は、「知り合いづてで転職することの重要さ」について、指摘しています。
 知り合いづてで転職することが重要である社会は、中途採用についての労働市場が、まだ十分には成立していない社会でもあるのかもしれません。

(4)非営利組織での活動

――企業という営利組織ではなく、NPO等という非営利組織での仕事に従事してもいい。それらの仕事を通して、社会との接点ができるし、いろいろな経験を積むこともできる。

 たとえば、歌人・俵万智さんは、その移住先である石垣島での生活において、地域の学校での、言葉の教育についての活動に、積極的に参加していたそうです(『オレがマリオ』文春文庫)。
 俵さんの働き方から、学ぶことのできることが、私たちには、様々あるかもしれません。

 また、女性たちの組織した非営利組織、その活動の成果については、たとえば、社会学者・上野千鶴子さんが、その著書である『「女縁」を生きた女たち』(岩波現代文庫)に、まとめているようです。

(5)都市での孤立

――大都市圏では、近隣に両親や親戚もおらず、夫婦が孤立しがち。

 都市には、ひとが、たくさんいるはずです。それなのに、なぜ、夫婦が孤立するのでしょう。
 このような問題については、社会学者であるデイヴィッド・リースマンによる『孤独な群衆』(みすず書房)という基礎文献があるようです。

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