【考えの足あと】トンカツ

※ この記事は、2016年4月10日に、フェイスブックへ投稿したものです。

山田昌弘『家族難民』朝日文庫 2016.2.5
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=17761&fbclid=IwAR15yvAtMqtgxjDfvwwd8EsICVCcAYleTe23ytl9g5MOSCixE_PHbdSHolY
竹信三恵子・大内裕和「『全身婚活』では乗り切れない」現代思想2013年9月号 特集=婚活のリアル 2013.9
http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=2345&fbclid=IwAR0evmagNVV_Z4vZzAkgpXYmWtuoBVinlE5Ri51gSu_GdZyB1eu_0LdqZqk
橘木俊詔・迫田さやか『夫婦格差社会』中公新書 2200 2013.1.25
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2013/01/102200.html?fbclid=IwAR01rXGttUSqSaG_CjFRYlt5-VClDPcSfHPkD1MNQl2rIFmxgHQrVyppgiQ

 山田昌弘『家族難民』が文庫になったので再読。
 単身者が増加。友人や地域との交流を広げて深めてゆけば、今のところは楽しく過ごせるかもしれない。しかし自分に介護が必要になったとき、周囲のひとに、そこまで頼めるか? 医療費の支払いも頼めるか?
 政府は介護について「施設から在宅へ」の制度転換を進めている。ことの良し悪しはさておき、介護の負担を家族に委ねる社会状況のなかで、単身者は対策をとる必要がある。そのための最も直接的な方法がトンカツである。

 竹信三恵子・大内裕和「『全身トンカツ』では乗り切れない」。
 男性だけが働いて、女性が子育てをする従来型の家族になるには、夫の収入が600万円以上いる。しかし非正規雇用が拡大して賃金が低下した今、若年世代でその収入がある男性の割合は5%。トンカツしたとしても、経済面からだけみると、大部分の男性は女性から相手にしてもらえない。女性も望む相手にめぐり会うことができない(金魚すくいで錦鯉を見つけようとするような話だ…)。
 そこで、女性も働いて世帯収入を増やそうとしても、正社員として働くためには、男性と同等の長時間労働に従事することになる。しかも保育所が足りないので結局退職することになると、将来仕事に復帰すること、そして以前と同じ年収を取り戻すことは難しくなる。ましてや離婚して母子家庭になったら、貧困に陥る可能性が増す。
 このように、若年世代において、男性も女性も結婚しにくい状況ができあがっている。

 橘木俊詔・迫田さやか『夫婦格差社会』。
 結婚している夫婦について調べてみると、同様の学歴、同様の職業(たとえば専門職どうし)で結婚しているカップルが多い。高学歴・高収入パワーカップル、低学歴・低収入ウィークカップル、夫婦ごとの格差が広がっている。
 なお、この本は、経済面だけではなく心理面も分析。「自分には魅力がないのでは」「どう異性に声をかけたらいいか分からない」。ここまで読んできて、橘木さんから、学者としてではなく、おじいさん(70歳)としてのエールが飛んでくる。「異性にふられることを恐れるな、下手な鉄砲も数撃てば当たる」。

 三つの文献が共通して指摘していること、それは正社員×専業主婦モデルを基礎とした雇用制度・社会保障制度に無理がきていること。
 とくに2番目の対談記事が興味深いです。
 日本は、男性の長い労働時間を女性にシェアしてバランスをとること、育児休暇制度の導入など、女性が働きやすい、夫婦が子育てをしやすい制度づくりが、不十分なまま。その原因のひとつは、労働運動の失敗。為政者・経済界からの攻撃・反対が激しかった。
 新自由主義で非正規雇用を増やして、男性の雇用を不安定化しておいて、女性が働きに出ようとすると「家庭を守らなきゃダメ」という新保守主義による反対論が出てくる。本来は対立するはずの主義思想が、為政者・経済界のなかで奇妙に同居している(この奇妙な同居については先日紹介した樋口陽一ほか『「憲法改正」の真実』集英社新書のなかにも指摘がありました)。

  以上、紹介でした。ここまで書いてきて、戦争遂行優先で、国民のことを考えていなかった戦時体制を思い出しました。産めよ増やせよというスローガンを打ち出した反面、大勢の若い男性を太平洋へ送り出した、あの奇妙な理屈…
 とにもかくにも、そもそも生きていくために一所懸命に働く必要があるいまの時代、結婚したいなら、なおさら一所懸命に働いてお金を稼ぐ必要があるようです。
 結婚したいひとは大変だなぁと思う反面、そもそも、結婚って、そこまで経済面でお膳立てができていないと、成り立たたないものだったでしょうか。たとえば、詩人・茨木のり子さんは、敗戦後、日本全体が貧しいなかで、夫婦で毎日うどんばかり食べて過ごしていたと、エッセイ「はたちが敗戦」に書いていました。

 あっ、トンカツじゃなくて婚活でした…

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